~「知る防災」から「自分ごとの防災」へ。子どもたちが自分で判断する力を育てる~
長岡技術科学大学(新潟県長岡市)等が中心となって進めてきたレジリエンス向上を目指した「防災ワクチン」の取組が、先月4月、令和8年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)を受賞しました。
今回の受賞は、災害を“自分ごと”として捉えるため、自らの判断で危険に気づき、どう行動すべきか考える力を育むことを目指した「防災ワクチン」の概念を基盤に、研修手法や教材を開発し、学校や家庭、地域へと社会実装を進めてきた3つの取組が評価されたものです。
その取組の一つとして通電火災の仕組みを体験的に学べる「ブレーカーキット」は、新潟県の産学官連携プラットフォーム「にいがた防災ステーション」を活用し、大学の研究成果を企業とのマッチングよって製品化へとつなげた防災学習キットであり、現在は子ども向け防災学習をはじめ幅広い場面で活用されているものです。
■文部科学大臣表彰を受賞した「防災ワクチン」とは?
災害への対応力を“事前に高める”ための考え方。薬のように問題を後から解決するのではなく、ワクチンになぞらえた考え方を防災に取り入れ、知識中心の防災から、当事者意識と主体性を育む「主体」防災への転換を目指しています。
■なぜ今、防災学習が必要なのか
自然災害が頻発する中、防災教育の重要性はこれまで以上に高まっています。一方で、災害について知識として学ぶだけでは、実際の場面でとっさに判断し、行動することは簡単ではありません。とくに家庭や学校、通学路など、子どもが日常的に過ごす場所には、災害時に初めて見えてくる危険もあります。「防災ワクチン」は、こうした課題に対し、疑似体験を通じて災害を身近に捉え、自ら考え、備えや行動を想像する力を育むことを目指してきました。災害時に“待つ”のではなく、身の回りの状況から自分で判断する力を養う点が特長です。
■「防災ワクチン」における具体的な3つの取組
「防災ワクチン」では、研修手法・教材を体系的に開発し、学校・自治体・企業と連携した産学官協働による社会実装化を進めてきました。主な取組は次の3つです。
1.通電火災の仕組みを体験的に学べる「ブレーカーキット」の開発・商品化
実物のブレーカーを使って、「水害」と「地震」による停電・通電火災の仕組みを体験的に学べる教育キットです。2階建ての模擬住宅に電気を流し、災害時の電気トラブルを再現しながら、ブレーカーを操作して安全に電気を復旧する方法や、通電火災発生のメカニズムを学ぶことができます。 産学官連携のプラットフォーム「にいがた防災ステーション」から生まれた商品で、 長岡技術科学大学と東京電力が開発した教材をもとに、柏崎ユーエステック株式会社が製造、船山株式会社が販売しています。キットは長岡市や見附市の小中学校での出前授業を通じて改良を重ね、2021年度には内閣府が支援する『防災教育チャレンジプラン』で特別賞を獲得し、地元の支援を得て商品化に成功しました。
なお、ブレーカーキットを活用した防災教育は、直近6年間で県内14回実施されています。
※画像はブレーカーキット
2.一枚の写真から災害リスクを読み解くワークショップ手法の考案
実際に起きた災害現場の写真をもとに、例えば被害者に自分がなりきり、「どこに危険があるか」「災害時に何が起きうるか」を考えるワークショップ手法です。昨年9月7日に新潟市にて実施された「ぼうさいこくたい」において、多くの人が集まり一枚の写真を元に災害リスクについて語り合いました。直近5年間で14回実施され、そのうち9回は県内で行われています。
3.家庭で停電を疑似体験する「ブラックアウト大作戦」の実施
停電時の生活を家庭で疑似体験することで、普段は気づきにくい不便さや備えの必要性を、親子で実感しながら学ぶ取組です。家庭内での会話や役割分担の見直しにもつながり、学校での学びを家庭の行動変容へと広げることが期待されます。実際に参加した子どもからは「部屋の中がまっくらになりとても怖かった。電気の大切さを知った」という声がありました。2024年度から開始し、毎年10月に実施しています。
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こうした取組を通じ、子どもから大人までが災害を自分ごととして捉え、適時・的確に行動する力が育まれます。また、通電火災の防止や停電への備えの向上が図られ、地域のレジリエンス強化と国民の安全・安心の確保への寄与が期待されています。
【今後の予定】※取材が可能です
◆ブレーカーキットの説明及びラジオ作成を体験しながら防災を学ぶイベント
・日時:6月20日(土)9時~11時
・場所:あてま高原リゾート・ベルナティオ・フォーラムセンター(新潟県十日町市珠川)
https://www.belnatio.com/activity/
・対象:小学4〜中学3年生の児童とその保護者(近日中に募集開始予定)
・内容:ブレーカーキットを活用し、地震発生時の通電火災を防ぐための対策や、洪水災害時に電気を早期復旧させるための漏電対応について、子どもたちが実際に体験しながら学びます。 また、停電時にはテレビや携帯電話が使用できなくなることから、災害関連情報をどのように取得するかが重要となります。 本プログラムでは、実際にラジオを製作し、防災情報を入手する手段について理解を深めていただきます。
◆「防災ワクチンフォーラム」開催(予定)
・日時:9月18日(金)
・場所:ホテルニューオータニ長岡NCホール(新潟県長岡市台町2丁目8-35)
https://www.nagaoka-newotani.co.jp/banquet/nchall.html
・内容:「防災ワクチン」の考え方や、社会実装の手法などについて、「ブレーカーキット」のデモンストレーション
コンセプトの詳細
https://bosaijapan.jp/app/uploads/2024/03/2021_04_seika.pdf
■「にいがた防災ステーション」とは?
新潟県は、過去に中越地震や豪雨、大雪など、度重なる災害を経験し、防災・減災に関する技術やノウハウ、人材などの資源が地域に蓄積されており、2020年、これらの資源を結び付け、
産学官が一体となって防災関連の商品やサービスを生み出す「防災産業クラスター」形成の取組を開始しました。
その中核となるのが、
産学官連携のプラットフォーム「にいがた防災ステーション」です。大学の研究シーズ、企業の技術力、現場ニーズをつなぎ、商品・技術開発や実証、販路開拓を後押ししています。現在、県内外あわせて245の企業・団体(県内166、県外79)が参画しており、これまでに14のプロジェクトが立ち上がり、研究開発や商品化に向けた取組が進められています。
■連携経緯
・新潟県と長岡技術科学大学において、令和3年1月21日に「防災・減災に関する包括連携協定」を締結
・連携事項の『防災及び減災に関する地域産業の振興』として、同大学が進める研究や技術を県内企業により製品化するため、
「にいがた防災ステーション」と連携し、プロモーションや企業マッチングを実施
■受賞概要
防災ワクチンの概念に立脚した教材と研修の普及啓発
受賞名:令和8年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)
受賞対象:防災ワクチンの概念に立脚した教材と研修の普及啓発
発表日:4月7日(火)
表彰式:4月15日(水)
目的:災害を「他人ごと」と捉える社会課題に対し、知識中心の防災から当事者意識と主体性を育む「主体」防災への転換を目指す。
効果:子どもから大人までが災害を自分ごととして捉え、適時・的確に行動する力が育まれるとともに、通電火災の防止や停電への備えの向上が図られ、地域のレジリエンス強化と国民の安全・安心の確保に寄与している。