関西大学商学部の矢田勝俊教授が代表を務める危機管理分析タスクフォース※は、消費者行動モデルを応用し、国内の状況に合わせた感染状況のモデル化を行うことで、PCR検査を無条件に増やすことではなく、「検査の効率的実施」と「確実な感染者の隔離を実現する医療体制の充実」のバランスの必要性を明らかにしました。
【本件のポイント】
・伝染病の伝播を表すSIRモデルを拡張し、感染者の「隔離」を明示的に扱えるモデルを構築
・PCR検査の拡充は発生初期に効果を発揮するが、その後の確実な隔離こそが重要であることを指摘
・PCR検査の効率的な実施と感染者の確実な隔離、医療体制の充実のバランスが重要となる
■ PCR検査は新型コロナウイルス終息の特効薬となり得るのか?
多くのメディアや論者には、未だにPCR検査の拡大が新型コロナウイルスの蔓延を防ぐ特効薬のように主張するものが見られます。これらの主張はPCR検査をしただけで感染者は治癒しないし、未感染者への感染も防げないという事実を軽視していると言えます。感染拡大を食い止めるには、PCR検査を増やすだけでなく、感染者を効果的に隔離することこそが重要です。
■ 無条件のPCR検査の拡大は被害を増大させる可能性も
中国、欧米で用いられている伝染病の伝播を表す従来の感染モデルは、感染者はすべて隔離される前提でその重篤患者になる度合い、または死亡する危険性を推し量ろうとするものです。しかし、国内の状況を鑑みると、PCR検査を無制限に行い、結果的に膨れ上がる感染者をすべて隔離することは困難と言わざるを得ません。
そこで同研究チームは、感染者が隔離される状況をモデルの中に明示的に組み込むことで、隔離される感染者の人数の増減、それに伴う医療体制への負荷状況について、貴重な示唆を導出することに成功しました。このモデルに依拠すれば、隔離の拡大・縮小が疫病の流行にどう影響するかを予測することが可能です。複数のシナリオによるシミュレーションの結果、感染者を隔離する割合、つまり隔離率をあげることが感染拡大を抑制する重要な要因であることがわかりました。無条件のPCR検査の拡大は医療体制の負荷を急増させ、結果的に死亡率の上昇を招きかねません。
新型コロナウイルスの感染拡大は未知の疫病であるため、刺激的な意見やコメントに人々の不安が煽られ、正常な判断を奪いかねません。データや理論モデルに基づき、科学的なアプローチでこの伝染病に立ち向かうことが必要です。今後、同研究チームでは、感染第2波に向けた政策提言をまとめる予定です。
※ 危機管理分析タスクフォースとは
▼
http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~yada/CT/
新型コロナウイルス感染拡大に対応する政策分析、提言を行う緊急プロジェクト。ビジネス、計算機科学の研究者らで構成され、未知のウイルスに関連する社会事象を理解し、効果的な政策提言につながる理論的、実証的な研究に取り組んでいる。上記のモデルやシミュレーションは、研究チームのメンバーである中西正雄(関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構非常勤研究員、関西学院大学名誉教授)の論文:『PCR検査はコロナウイルス終息の「特効薬」か』(RISS DPシリーズ 第87号 2020年8月)を参考にしている。
【本件の取材は下記担当者まで直接お問い合わせ下さい】
商学部教授 矢田 勝俊(やだ かつとし)
E-mail: yada@kansai-u.ac.jp
TEL: 06-6368-1251
▼本件の詳細▼
・関西大学プレスリリース
http://www.kansai-u.ac.jp/global/guide/pressrelease/2020/No23.pdf
▼本件に関する問い合わせ先
総合企画室 広報課
寺崎、木田
住所:大阪府吹田市山手町3-3-35
TEL:06-6368-0201
FAX:06-6368-1266
メール:kouhou@ml.kandai.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/