実践女子大学(東京都日野市、学長:城島栄一郎)は、文部科学省私立大学研究ブランディング事業に採択された「源氏物語研究の学際的・国際的拠点形成」の一環として、源氏物語写本の高精細デジタルマイクロスコープVHX7000による観察を続けています。この研究を通じて国文学や美術史に新しい地平を切り拓く文理融合の学問体系の姿が見えてきました。この成果を広く世に知らせるシンポジウムを、3月13日(土)から2日間の日程で、ZOOMで開催します。
紙の繊維が、雁皮か楮紙(こうぞかみ)か三椏(みつまた)か、その混合紙か、あるいは紙に混合されている米粉や粘土はどのような働きをしているのか、紙の塑性変形はどのようにして起きたのか...。紙を通してそこに見えるものは紙の物質としての性格だけではありません。そこからは、本の流通や製作に関わるさまざまな知見が得られるばかりか、紙が支えた文化や社会の様相までも見えてきます。
我々は源氏物語の研究にとどまらず、最終的には紙の物差しともいうべき、和紙の編年を構想しています。これは従来の書誌学、コディコロジー(写本学)の学問大系を大きく展開させ、イノベーションを引き起こすと期待されています。
〈実施内容〉
[日 時]
2021年3月13日(土)14:00~16:30
3月14日(日)10:30~17:30
[会 場] Zoomウェビナーによるオンライン(ホスト:実践女子大学文芸資料研究所)
[主 催]
実践女子大学文芸資料研究所・「源氏物語研究の学際的・国際的拠点形成」
文部科学省 平成30年度 私立大学研究ブランディング事業
[共 催]
公益財団法人 東洋文庫
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構国文学研究資料館
[協 力] 印刷博物館
【1日目】3月13日(土) 14:00~16:30
○第1部 14:00~15:30
・開会の辞 河野龍也(実践女子大学)シンポジウム開催にあたって
・発表
1.江南和幸(龍谷大学名誉教授) 新コディコロジーの提唱―自然科学、工学、文学の融合―
2.澤山茂(実践女子大学文芸資料研究所) 和紙概説―繊維と充填剤―
3.舟見一哉(実践女子大学) 古筆切におけるツレの認定と紙質―源氏物語を中心に―
○休憩 15:30~15:40
○第2部 15:40~16:30
・講演
1.石塚晴通(北海道大学名誉教授) コディコロジー(文理融合型綜合典籍学)の展開
2.中西保仁(印刷博物館) 印刷博物館がめざすもの
【2日目】3月14日(日) 10:30~17:30
○午前の部 10:30~12:30
・ご挨拶 濱下武志(東洋文庫)
・発表
1.徐小潔、曾谷佳光(東洋文庫) 『大清聖祖仁皇帝實録』(康熙帝實録)の紙質―大紅綾本と紫綾本―
2.中村覚(東京大学史料編纂所) 機械は紙を見分けられるのか―紙質観察画像データベースの構築と画像分類における機械学習技術応用の試み―
共同研究者:徐小潔(東洋文庫)、段宇、(学習院大学)、多々良圭介(東洋文庫)
・講演 赤尾栄慶(京都国立博物館名誉館員) 料紙を観る―京都国立博物館所蔵の典籍―
・質疑応答
○休憩 12:30~13:50
○午後の部 14:00~17:30
・パネル:打紙(うちかみ)と米粉
司会:佐藤悟 コメンテーター:舟見一哉
・発表
1.鈴木七実(東京芸術大学院)・大和あすか(東京芸術大学) 打紙の復元実験―平安後期伊勢物語絵巻の想定復元制作を通して
2.澤山茂(実践女子大学文芸資料研究所) 打紙による紙の緻密化と平滑化
3.上野英子(実践女子大学) 書き入れのある源氏物語の紙質について―明融本、公条本等―
4.横井孝(実践女子大学名誉教授) 為家本源氏物語「幻」の紙質と筆者
5.江南和幸(龍谷大学名誉教授) 穀物デンプン添加による紙の改質―4世紀中央アジア文書から江戸期刊本用紙にみる―
6.日比谷孟俊(実践女子大学文芸資料研究所) 縮緬絵の制作工程に関する新しい考察―紙の塑性変形について―
7.佐藤悟(実践女子大学) 『偐紫田舎源氏』の料紙について―紙質と価格の関係―
・パネルディスカッション・質疑応答等 17:00~17:20
・閉会の辞 山本和明(国文学研究資料館) 国文学研究資料館が目指す未来
※本イベントご参加申込みについては、以下をご確認ください。
https://www.jissen.ac.jp/bungei/event/2020_index.html
佐藤悟教授のコメント
「源氏物語研究の学際的・国際的拠点形成」
文部科学省 30年度私立大学研究ブランディング事業プロジェクト・リーダ
我々の責務は、この高精細デジタルマイクロスコープVHX7000による観察という理系の技術を文系の学問と融合させ、新しい学問を創生することにあるという確信を抱くに至り、今回のシンポジウムを開催することとなりました。文系の伝承や経験から来た仮説を理系の技術によって検証することにより、誰もが同じ結論を得られます。これは理系の世界では当たり前のことであっても、文系の世界においては必ずしも当たり前ではありませんでした。東洋文庫、国文学研究資料館、印刷博物館、実践女子大学という新コディコロジーに関心を持つ四機関が集まってシンポジウムを開くのも意義のあることです。
シンポジウムの開催にあたり、この領域を切り開いた江南和幸、石塚晴通、赤尾栄慶の三氏に講演をお願いすることができたのは望外の喜びです。三氏は、これまでこの方法論を新コディコロジーと名付け、普及に努めてこられました。私が新コディコロジーと出会ったのは、2016年12月に東洋文庫で開催された第9回絵入本ワークショップの時でした。その時以来、江南和幸氏のご指導を受け、今日に至っています。次の世代の研究者もこの方法論を受け継いでいただきたいと希っております。
今回、中心となるのは源氏物語の紙です。そこで問題になったのは、打紙を施した紙です。源氏物語の古筆切(こひつぎれ)をも含めた写本を観察するうちに、打紙の様相が写本により異なり、また紙質も異なることに気付きました。それらの違いを考えることは、源氏物語の書写の背景を理解する上で意義があることと考えました。打紙を行うということはどういうことなのでしょうか。紙の表面が平らに緻密になることは、紙に美しい字を書くためには不可欠の作業でした。
また、近世期の刊本の用紙には大量の米粉が漉(す)き込まれたものがあることも判明しました。米粉の使用は、大量製作される刊本には打紙では対応できなくなったため、米粉を充填剤、平滑剤として使用したことが想定されます。また多色摺(たしょくズリ)に対応するためにも、この用紙は不可欠でした。この技術がどこから来て、どのように発展したのか未解明の問題が多くあります。米粉が含まれる紙と含まれない紙の差異が何を意味するのでしょうか。
上記を踏まえ、このシンポジウムが新しい文学史を構築する端緒となることを期待しています。
▼本件に関する問い合わせ先
学校法人 実践女子学園
経営企画部広報課
住所:〒191-8510 東京都日野市大坂上4-1-1
TEL:042-585-8804
メール:koho-ml@jissen.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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