世界に先駆け、マルチコアファイバによる光海底ケーブルの大容量化を実現する基盤技術を開発・実証
- 古河電気工業株式会社
- 2022年03月28日
- 11:11
株式会社KDDI総合研究所(代表取締役所長:中村元、以下 KDDI総合研究所)、国立大学法人東北大学(総長:大野英男、以下 東北大学)、住友電気工業株式会社(社長:井上治、以下 住友電工)、古河電気工業株式会社(代表取締役社長:小林敬一、以下 古河電工)、日本電気株式会社(代表取締役 執行役員社長 兼 CEO:森田隆之、以下 NEC)、株式会社オプトクエスト(代表取締役社長:東伸、以下 オプトクエスト)の6機関は、今後も継続的な拡大が予想されているデータ流通量に対応するため、総務省委託研究 研究開発課題「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発」、技術課題Ⅱ「マルチコア大容量光伝送システム技術」(平成30年度~令和3年度)に取り組み、主要な国際データ通信インフラである光海底ケーブルシステムの大容量化技術の研究開発(以下 本研究開発)を実施しました。
本研究開発では、従来の光ファイバの容量限界を打破する技術として、光が伝搬するコアを光ファイバ中に複数設けるマルチコアファイバに着目し、長距離の光海底ケーブルシステムへ適用するための伝送方式の検討を行い、実験室内での伝送実験によりその有効性を確認しました。また、マルチコアファイバを収容した光海底ケーブルや小型のマルチコア光増幅器、光海底ケーブルの特性評価技術を開発し、光海底ケーブルシステムの持続的な大容量化を実現するための基盤技術を確立しました。これらにより、アジア域等をカバーする3,000km級の光海底ケーブルシステムにおいては、マルチコアファイバの適用により、既存システム(注1)の7倍の毎秒1.7ペタビット程度まで容量を拡大できる可能性があることを確認しました。
今後は、本研究開発で確立した技術を基に、2020年代半ばの実用化に向け量産化技術や運用保守技術等の実用化に向けた研究開発を推進し、マルチコアファイバを活用した国際データ通信インフラの拡充に貢献します。
【背景】
5Gサービスの普及に伴うモバイルデータ通信の増加やデータセンター間の通信需要の増大などを背景に、世界中のデータ流通量は増加の一途をたどっており、国際通信の回線需要は2020年~2026年で年率30~40%伸長すると予想されています(注2)。さらに、オンラインによる社会活動が一般化したニューノーマル時代では、その傾向に一層の拍車がかかることも予想されます。このような需要に応えるため、大容量通信を実現する光海底ケーブルシステムの国際データ通信インフラとしての重要性はますます高まっています。光海底ケーブルシステムの大容量化に向けては、ケーブルに収容する光ファイバ数を増加させる多心化が有効です。しかし、従来の光ファイバでは、ケーブル外径を変えずに収容できる光ファイバ数には限界があり、さらなる大容量化が困難となっていました。
【研究開発の内容と成果】
KDDI総合研究所、東北大学、住友電工、古河電工、NEC、オプトクエストの6機関は、従来の光ファイバの限界を打破する技術として、光が伝搬するコアを光ファイバ中に複数設けるマルチコアファイバに着目し、光海底ケーブルシステムの持続的な大容量化を実現するための、以下(1)~(5)の基盤技術の開発・実証を行いました。全ての開発・実証結果を組み合わせ、アジア域等をカバーする3,000km級の光海底ケーブルシステムを、4コアファイバを32心(16対)収容した光海底ケーブル・複合機能デバイス・光増幅中継器で構成し、ケーブル容量が毎秒1.74ペタビット程度まで拡大できる可能性を確認しました。
※(1)の一部・(2)・(4)は既に各社より発表済みの内容
(1)マルチコアファイバを用いた長距離伝送方式の開発・実証(図中の1)
世界最小級に伝送損失を低減したマルチコアファイバの開発に成功し、太平洋横断距離を上回る距離で、超高速な光信号のマルチコアファイバ伝送に成功しました。開発したマルチコアファイバは4つのコアを設けており(4コアファイバ)、通常の光ファイバの4倍の伝送容量を伝送可能とします。光ファイバ構造と製法の最適化により、マルチコアファイバ伝送で課題となるコア間の信号干渉(コア間クロストーク)を抑圧したマルチコアファイバの中では世界最小級損失の0.155dB/kmを実現しつつ、-60dB/100km以下の低クロストーク性も確保したマルチコアファイバの開発に成功しました。また、開発した光ファイバを適用することにより、毎秒109テラビットの超大容量光信号を 3,120km以上伝送可能であることに加え、毎秒56テラビットの光信号を12,000km以上伝送可能であることを実証しました。
※世界最小級に伝送損失を低減した低クロストークマルチコアファイバを開発
古河電工、KDDI総合研究所、2020年11月30日
https://www.furukawa.co.jp/release/2020/kenkai_20201130.html
(2)マルチコアファイバを収容した光海底ケーブルの開発(図中の2)
マルチコアファイバを収容した光海底ケーブルを世界で初めて開発しました。開発したマルチコアファイバケーブルには4コアファイバを収容し、光ファイバサイズおよびケーブル外径を維持したまま伝送容量を大幅に拡大することを可能としています。本光海底ケーブルには4コアファイバを32心収容でき、最大で128コアによる大容量伝送が可能です。開発したマルチコアファイバケーブルを用いて、実際の利用を想定し水中・長距離の伝送試験を行い、光ファイバそのものの試験結果と比較して、光信号パワーの減衰量、コア間クロストークなどの光学特性に大きな変化はなく、良好な伝送性能を得ることに成功しました。
※「世界で初めてマルチコアファイバを収容した海底ケーブルを開発」
NEC、株式会社OCC、住友電工、2021年10月4日
https://jpn.nec.com/press/202110/20211004_01.html
(3)マルチコアファイバの特性評価技術の開発(図中の3)
コア数4以上のマルチコアファイバおよびそれを収容した海底ケーブルの光学特性を評価する2つの技術を開発しました。第1の波長掃引法では、マルチコアファイバのモード依存損失、クロストークを評価でき、第2のOTDR法では、マルチコアファイバの損失、クロストークの長手分布を評価できます。両方式で60kmの4コアファイバケーブルを評価し、ファイバ特性から予測されるクロストーク性能がケーブルで得られているとともに、両方式の測定値が誤差1dB以内で良く一致することを実証しました。
(4)空間多重型高密度光デバイスの開発(図中の4)
3種類のマルチコアファイバ光アンプ用複合機能デバイスを開発しました。開発した複合期機能デバイスは、4コアファイバ用アイソレータ内蔵Fan-in/Fan-out(ファンイン/ファンアウト)デバイス、4コアファイバ用Fan-out付きTAPモニタデバイス、4コアファイバ用O/E変換器付きTAPモニタデバイスの3種類であり、複数機能を1デバイスに集約するとともに、世界最高水準の低損失(typ0.4dB)と小型化を同時に実現しています。
※「マルチコアファイバ光アンプ用複合機能デバイス(3種)」を開発
オプトクエスト、2021年10月22日
https://www.optoquest.co.jp/news/20211022.html
(5)マルチコア光増幅中継方式の開発・実証(図中の5)
シングルコア光増幅器とFan-in/Fan-outデバイスで構成するマルチコア光増幅器よりも小型なマルチコア光増幅器の開発に成功し、基本的な光増幅動作を実証しました。現在のシングルコアベースのマルチコア用光増幅器ではコア数分のゲインブロック(注3)が必要となり、コア数が増加すると比例してゲインブロックも増加します。そのため、トラフィック需要増に応じて光海底ケーブルシステムを大容量化し続けると、将来的に現行サイズの海底ケーブル中継器内には収容しきれなくなるという課題がありました。開発したマルチコア光増幅器では、1つのゲインブロックで複数コアを一括して増幅するクラッド励起方式を採用するとともにそのゲインブロックを構成する部品やその配置を工夫することで、体積を従来の半分程度にすることに成功しました。
これらの開発結果を組み合わせ、アジア域等をカバーする3,000km級の光海底ケーブルシステムを、4コアファイバを32心(16対)収容した光海底ケーブル・複合機能デバイス・光増幅中継器で構成しました。本システムは既存のシステムと比較し7倍となる毎秒1.7ペタビット程度までの容量を拡大できる可能性を確認しています。今後は、本研究開発で確立した基盤技術を基に、マルチコアファイバの量産化技術の開発、長期信頼性の検証、運用保守技術の開発等を推進し、2020年代半ばの実用化を目指します。
(注1)最大伝送容量を有する既存長距離光海底ケーブル:Dunant(毎秒250テラビット)
https://cloud.google.com/blog/ja/products/infrastructure/googles-dunant-subsea-cable-is-now-ready-for-service
(注2)出典:TeleGeography
(注3)伝送によって弱くなった光信号を増幅する装置の一部。光増幅器の増幅媒体および付属光部品を指す。