芝浦工業大学(東京都港区/学長:山田純)工学部土木工学科の楽奕平准教授、東京大学大学院工学系研究科の加藤浩徳教授らの研究グループは、首都圏の鉄道18路線を対象に、車内混雑が各路線の財務状況にどのような影響を及ぼしているかを分析しました。
鉄道運営の効率性研究としては初となる個別路線レベルでの分析手法により、車内混雑率が高いほど費用効率は低下するが、収入効率は高くなることなどが示されました。今回の分析結果は、車内混雑と財務パフォーマンスとのトレードオフを明示的に考慮しつつ、鉄道サービスの質を向上させるための戦略立案への寄与が期待されます。
■ポイント■
・首都圏の主要18路線を対象に効率性(運行効率、コスト効率、収益効率)を分析
・鉄道の効率性研究ではこれまで着目されなかった車内混雑率を運行効率の分析に考慮
・混雑状況や財務状況の改善など、鉄道会社のさまざまな戦略検討への寄与に期待
■研究の背景■
首都圏において鉄道は通勤・通学客や観光客等に最も利用されている交通手段ですが、長年にわたり朝のピーク時の車内混雑が問題となっています。車内混雑の緩和は社会的課題であるものの、近年の人口減少に伴う交通需要の伸び悩みもあり、車両増備、駅ホームの拡張などの設備投資が十分に行われていません。そしてほとんどの鉄道路線は、政府が定めたピーク時平均車内混雑率の目標値である150%(国土交通省 2018年)を超える高い車内混雑率に悩まされています。
一方で、一部の鉄道事業者は低い車内混雑率を維持しながら、良好な財務状況を実現するために、業務効率の向上や営業費用の削減、営業収益の強化に努めています。それにもかかわらず、鉄道の運行効率や鉄道事業者の財務パフォーマンスに関する実証研究においては、これまで車内混雑はほとんど考慮されてきませんでした。
■研究概要■
本研究は、これまで財務パフォーマンスの評価に広く用いられてきた諸要因に加え、車内混雑の側面も考慮して都市鉄道のパフォーマンスを評価することを目的とし、首都圏の鉄道路線を対象として実証的に分析するものです。ここでは、経営効率性分析で広く用いられている包絡分析法(DEA)を、これまでに例のない個別路線レベルでの分析に適用しました。また、各路線の効率性を評価するために、運行効率、費用効率、収入効率の3つを指標として用いました。
分析の結果、鉄道の運行効率向上には、車両キロ(列車キロ×編成両数)と車両定員の2つの要素が影響することがわかりました。また、人件費・営業費の削減と運輸雑収入の増加が、費用と収入の効率改善に寄与することが示されました。さらに、車内混雑率は費用効率と負の相関がありますが、収入効率、特に雑収入と正の相関を持つことも明らかとなりました。これらは、車内混雑率が高い路線が必ずしも高い財務パフォーマンスを持つとは限らないことを示唆しています。
各路線の効率性を向上させるための施策検討に繋がる本研究は、今後、首都圏の各路線を運営する鉄道会社の事業戦略立案に貢献することが期待されます。また、財務状況や車内混雑状況を加味した鉄道の効率性分析に関する提案手法は、他の鉄道関連都市における都市鉄道の総合評価にも有用だと考えられます。
■今後の展望■
今後はより細かな路線別データを用いることによる分析精度の向上や、地域間鉄道、高速鉄道、地方鉄道など複数の種類の鉄道サービスを提供している会社の実証分析、さらに主要都市間での鉄道運営効率性の国際比較等を検討しています。
▼本件に関する問い合わせ先
芝浦工業大学 経営企画部企画広報課
担当:河内
住所:〒108-8548 東京都港区芝浦3-9-14
TEL:03-6722-2900
メール:koho@ow.shibaura-it.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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