下水処理水を液体肥料としてサツマイモの大量生産に成功 サツマイモによるバイオ燃料で化石燃料の代替をめざす



近畿大学生物理工学部(和歌山県紀の川市)生物工学科教授 鈴木 高広、日本下水道事業団東海総合事務所(愛知県名古屋市)、株式会社ウォーターエージェンシー(静岡県浜松市)の研究グループは、下水処理水を液体肥料として利用し、サツマイモを大量生産する方法を開発しました。生物理工学部では、サツマイモをエネルギー源とした燃料電池発電の研究も行っており、本研究成果を生かして石油・石炭・天然ガスといった化石燃料を代替し、温室効果ガスの削減に寄与することをめざします。
本件に関する論文が、令和5年(2023年)2月24日(金)に、園芸植物に関する国際誌''Horiculturae''に掲載されました。




【本件のポイント】
●下水処理水を肥料として利用する栽培システムを用い、サツマイモの大量生産に成功
●日射エネルギーの活用効率は、バイオマス資源における世界最高の3.6%を達成
●サツマイモを用いた燃料電池発電により化石燃料を代替し、温室効果ガスの大幅削減に寄与できると期待

【本件の背景】
サツマイモは、微生物によって高効率にメタンガスに変換できるため、食用だけでなくバイオ燃料用の作物として注目されています。現在バイオ燃料として広く活用されている木質バイオマスよりも、サツマイモの方がメタンガスを高効率に得ることができ、家庭用の燃料電池エネファームを用いて発電・給湯を行った場合、サツマイモが光合成で作り出したエネルギーののうち、90%が利用可能となります。これにより、石油・石炭・天然ガスなどと代替することで、温室効果ガスを大幅に削減することが可能となります。
一方で、サツマイモは光飽和点※1 が比較的低く、日照量が増えても光合成できる量が頭打ちになり、晴天時の日射量の約半分が未利用であると言われています。そのため、サツマイモを大量生産するには肥料が必要となり、安価かつ多量の肥料の入手が課題となっています。

【本件の内容】
研究グループは、これまでもサツマイモを大量生産する方法の開発に取り組んできましたが、本研究では処理した下水を液体肥料として利用することについて検討しました。
サツマイモの苗を植えたポットを3段に並べ、6月から11月まで160日間、下水処理水を供給して栽培したところ、葉が大量に増殖し、サツマイモの収量は19.5kg/m²となりました。また、冬場でも水温を15℃以上に保って処理下水を供給したところ、越冬栽培に成功し、8.4kg/m²を収穫。年間生産量は25.3kg/m²となり、全国平均2.4kg/m²の約10倍の収穫に成功しました。
この結果は、これまで報告されているサトウキビやユーカリなどのバイオ燃料資源の最大生産量を大きく上回るもので、下水処理水の供給によるサツマイモの大量生産が、化石燃料の代替品として大規模に実現できる可能性を示唆しています。また、本研究成果を用いてサツマイモを栽培し、燃料電池で発電した際の日射エネルギーの活用効率を算出したところ、バイオマス資源において世界最高の3.6%となり、温室効果ガスの大幅削減への寄与が期待されます。

【論文掲載】
掲載誌 : Horticulturae(インパクトファクター:3.463@2023)
論文名 : Effects of sewage treatment water supply on leaf development and yield of tuberous roots in multilayered sweet potato cultivation
(サツマイモ多層栽培における下水処理水供給が葉の発達と塊根の収量に及ぼす影響)
著者  : 鈴木 高広1*、坂本 勝1、久保 裕志2、宮部 由彩2、廣島 大祐3
     *責任著者
所属  : 1 近畿大学生物理工学部生物工学科、2 日本下水道事業団、3 株式会社ウォーターエージェンシー
URL  : https://doi.org/10.3390/horticulturae9030309

【本件の詳細】
近畿大学生物理工学部の研究グループは、先行研究において、サツマイモの根圏※2 に酸素を含む灌漑水と液肥を供給する根圏水耕栽培法を用いることで、生産量が大幅に増大することを見出しました。さらに、日射を立体的に分散し光合成効率を高めるために、根圏灌漑多層(三層)栽培システムを開発し、合成肥料を希釈した灌漑水を根圏に供給して大量生産実験を行ったところ、全国平均の4倍に相当する10kg/m²の生産に成功しました。
本研究では、より安価な液体肥料として下水処理水に注目しました。日本では、令和3年度(2021年度)時点で汚水処理人口普及率が92.6%に達しており、これを活用することで、食品生産に必要な窒素やリンなどの肥料成分を、安価かつ大量に回収することが期待できます。
まず、処理前の下水を灌漑用に供給してサツマイモを三層栽培したところ、根圏が酸欠となり生育促進効果が乏しいことが明らかになりました。そこで、ばっ気処理※3 後の下水処理水を供給したところ、処理水中に含まれる適度な低濃度の窒素やリンと、酸素の連続供給がサツマイモの生育を加速することを見出し、春植え秋収穫で収穫量を19.5kg/m²に高めることに成功しました(図1)。
さらに、下水処理水は冬季でも水温が15℃以上に維持されているため、秋に収穫した蔓を新たな苗として12月に植え付け、三層栽培棚をビニルフードで覆い、下水処理水を通水したところ、冬季の温室暖房用の燃料をまったく使用せず生育することができました。4月にビニルフードを取り外して7月まで栽培を継続したところ、越冬栽培に成功し、8.4kg/m²を収穫しました。栽培重複期間を補正した結果、年間では25.3kg/m²の収穫量となり、全国平均の10倍に達することが明らかとなりました。
なお、サツマイモの光合成効率は、三層栽培法により従来と比較して3倍に、下水処理水の連続供給によりさらに2倍(総合効率:6倍)高まりました。さらに、暖房用の燃料を用いる必要がなくなったため、11月~5月も栽培することが可能となり、これまで無駄になっていた日射エネルギーを利用することで、光合成効率がさらに1.6倍(総合効率:10倍)に高まりました。冬季栽培の温度管理など、栽培条件を改善すれば、さらに総合効率を12~15倍に高められることも示唆されました。
また、日射エネルギーの活用効率を算出したところ3.6%となり、バイオマス資源において世界最高の効率となりました。現在よく活用されている、老齢化した国内森林を利用した木質バイオマス発電の効率0.018%と比較して、単位面積あたり200倍量のCO2を回収することが可能であると示唆されました(図2)。


【今後の展望】
本研究成果を生かし、今後全国の下水処理水中の肥料成分を用いて、サツマイモの年間生産能力を解析します。また、冬季栽培および通年の光合成効率をさらに高める方法を検討します。そのほか、余剰汚泥(活性汚泥処理した後の残留固形分)と共にサツマイモの茎葉・塊根を全量メタンに変換する方法や、メタン発酵後の残渣も肥料として利用することで、下水道網を利用した肥料成分の国内循環方法の確立をめざします。

【研究者のコメント】
鈴木 高広(すずき たかひろ)
所属  :近畿大学生物理工学部 生物工学科
職位  :教授
学位  :農学博士
コメント:下水処理水を液肥として利用した三層栽培システムを用いることで、サツマイモの収穫量を通常農法の10倍に高められることを実証しました。塊根だけでなく茎や葉も食べられるサツマイモは、収穫したバイオマスの全量を嫌気消化法により容易にメタンに変換できる水素資源作物です。メタン(天然ガス)も水素も国産化することで、肥料、飼料、食料、エネルギーのすべての自給率を劇的に高められるだけでなく、地球温暖化対策のゲームチェンジャーにもなり得る研究成果です。持続的資源循環社会を目指すSDGsや宇宙開発(月面基地の食料生産)にも貢献する成果として、海外からも注目されています。

【用語解説】
※1 光飽和点:植物の光合成では、光の強さが高まると光合成速度が速くなるが、それ以上照度をあげても光合成速度は上がらなくなる時点の状態を、光飽和点という。
※2 根圏:植物の根から数mmの範囲と、根の影響を受ける土壌中微生物が相互作用する範囲。
※3 ばっ気処理:液中に酸素を供給すること。ばっ気処理をすることで、好気性微生物による汚水中の有機物分解を促進する。

【関連リンク】
生物理工学部 生物工学科 教授 鈴木 高広(スズキ タカヒロ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/146-suzuki-takahiro.html
生物理工学部 生物工学科 講師 坂本 勝(サカモト マサル)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/905-sakamoto-masaru.html

生物理工学部
https://www.kindai.ac.jp/bost/

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