2024年度診療報酬改定の施行時期が、例年より2ヵ月後ろ倒しとなり6月1日になる見通しです。そこで、メディカル・データ・ビジョン株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:岩崎博之)と雑誌「医事業務」(株式会社 産労総合研究所発行)は共同アンケートを実施し、現場の声を集めました。
厚生労働省は今年8月2日、通常2年に1回行われる診療報酬改定について、施行時期をこれまでの4月1日から2ヵ月後ろ倒しする案を中央社会保険医療協議会に提示し、了承を得ました。これは診療報酬改定DXに向けた施策の一環で、例年の報酬改定の施行時期をはさむ2月から5月頃に医療機関や電子カルテなどの業者に大きな業務負担が生じている、いわゆる「デスマーチ(死の3月)」を解消するのが狙いです。
■業務量の増加状況は病院によってまちまちか
このアンケートは、8月28日から9月5日までにWEBで実施。計278人の病院関係者から回答を得ました。改定準備に要する業務量が急増する状況は例年に比べ解消すると予想しているか聞いたところ、「解消する」と回答したのは128人(46%)、「解消しない」と回答したのは136人(49%)、「かえって大変になる」と回答したのは14人(5%)でした。
以下に、病院関係者の声を、一部字句の修正をしましたが、ほぼそのまま記載します。
【解消する】
・作業日数が長くなり、電子カルテ・医事システムの対応、施設基準の申請、改定内容の理解、院内周知、シミュレーション作業などに時間的猶予ができる
・3月、4月初旬に集中していた業務が少しは分散できる
・今までのタイムスケジュールが異常。人事異動やその他法改正と時期がずれる
・部署によるが解消が見込まれる。ただし、国やベンダーからの情報提供や対応の時期・期間が変わらなければ何も変わらない
・診療報酬改定についての公開情報だけでは情報量が不足していたが、多少、検討する余裕ができる
・年度末の人事異動の時期と改定に関する事務作業増加時期が重複しないため
・4月は決算資料の作成もあり業務負荷が大きく、後ろ倒しになることは助かる
・新規施設基準の届出準備や、すでに届け出ている施設基準を満たしているかの確認は官報、通知、疑義解釈が出てからの1ヵ月間に集中して行わなければならないが、これを分散できるため
・疑義解釈の通知が順次発出される中で、特に新設の施設基準の取得に向けた院内調整や届出書類の準備を行うため、疑義解釈次第で取得予定であったものが取得できない状況にもなる。例年の届出期限は4月20日頃と短く、調整に費やす時間が圧倒的に不足する中で不要な作業は多少減少するのではないか
・ベンダーの負担軽減・質改善はもとよりだが、病院も施設基準を吟味する時間が取れる(期間をあけたことはよいが、本当は前倒しすべき。中医協を前倒しして、12月か1月に告示、4月改定が理想。6月改定だと、通常4月開始の新年度予算編成と執行が難しい運用となり、そこを考えてほしかった)
・短冊の段階で大まかな院内運用を想定しているが、人事異動により覆ることもしばしば見受けられ、運用の見直しをすることが多いため、解消することが期待される
・施設基準を満たすために配置変更や業務内容の調整をする期間が長ければ長いほど助かる。 各部署に配布する資料作成する余裕もできる
・改定後の方針を決めやすくなる
【解消しない】
・年度末と年度初めは対応することが多く、とてもではないが追いつかない。休日出勤が当たり前になっている
・改定準備の業務量は変わらないため負担軽減にはならない
・疑義解釈や通知が後ろ倒しになるのであればあまりメリットはない
・事務や看護系の人事異動が実施できず運用が滞る可能性がある
・改定に関する個人の業務量は変わらない
・施行時期と人事異動の時期がずれるため、増員が必要な場合には手が打てなくなる
・病院の作業はベンダーが改定対応プログラムをリリースしてからの勝負が主体。リリースがよほど早くなるなら別だが、今まで3月20日前後(開始10日前)だったのが5月15日(開始2週間前)になるくらいの変化しか起きないのではないか
・ベンダーからのマスタ提供がなければ作業が進まないので、病院側のスケジュールは例年と変わらない
・特に情報システム対応とその運用整理に余裕を生むには、6ヵ月程度の後ろ倒しが必要
・技術的改定ならともかく、政策的改定では経過措置期間が変わるわけではないので、4月ちょうどではなくても6月以前から取り組みが必要な項目は変わらない
・業務に慣れていない職員が準備を担当する可能性がある
・DX関連作業に時間が費やされることに変わりがなく、算定が4月からできないことのほうが問題
・薬価との2段階改定になると、下手をすると業務量が増える可能性もありそう
・必要な人材の配置が経過措置期間を含めても対応が難しい。事務も含め、人手不足が深刻
・現場は新旧点数で混乱することが予想される
【かえって大変になる】
・年度の途中で診療報酬の体系が変わると後でデータを集計するのが大変になる
・いつも診療報酬の内容や詳細、解釈が不明な点が多く、厚生局に問い合わせをしても回答が出るのも3ヵ月以上後で対応が遅い。準備期間を延ばしても病院の思考・待機期間が延びるだけで実質の解消には直結しない
・短期間で収支予想のデータも作成が必要になる
・患者さんたちに誤解を生みだしてしまうかもしれない
・予算やそれに付随する統計は4月を基準に動いているため、統計の金額や項目が年度途中で変更されることになる。 同じ診療行為でも2つに分かれたり、医事のコードが変われば別の項目として分ける必要が出てきたりして、年度を通して不都合が生じる可能性がある
・6月は人事異動があった際に前任者が対策を放置していくことが考えられる。私は正にそれに当てはまると予測しているので、本当にやめてもらいたい。後ろ倒しするなら2ヵ月ではなく、4~6ヵ月ずらしてもらいたい。そうすれば異動者も業務や環境に慣れてくるため、負担が軽減されると思われる
■施行時期後ろ倒しの「院内周知」が最多
施行時期が後ろ倒しになることで準備することを複数回答で聞いたところ、院内周知(232人、83%)が最も多く、ベンダーとの連携(203人、73%)、医事課内の体制整備(190人、68%)、患者さんへの周知(93人、33%)、その他(17人、6%)と続きました。また、その他の内訳では「年度単位の統計(集計)をどのように実施するか検討」「施設基準届出にかかわる各部署との調整」「取得可能な施設基準等の見直し」「医事会計マスタの整備、電子カルテテンプレートの作成」「6月業務量の調整」「他医療機関との情報共有、連携」といった回答がありました。