~まるでアート作品!鮮やかな土壌断面標本“モノリス”を37本展示~
東京農業大学「食と農」の博物館では4月18日(木)から8月31日(土)の期間、企画展「美しき土壌の世界」を開催します。
土壌は物質ではなく環境です。私たち人間が生活している住宅と同じく、土壌微生物や植物(根・地下茎)、土壌生物にとっての居住空間です。その居住空間は非常に多様な色彩を帯び、複雑な構造を形成しています。ワクワクするくらい色々な種類があるのです。そして全ての土壌が示す色は、なぜか美しいのです。
企画展「美しき土壌の世界」では、北海道から沖縄まで様々な場所でできた土壌から作った“モノリス”(土壌断面標本)を一堂に展示。まるでアート作品の様に鮮やかな土壌を見比べ、体感いただきながら、地下にひろがる土壌の世界に誘います。
■企画展「美しき土壌の世界」
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【開催期間】
2024年4月18日(木) - 8月31日(土)
【展示場所】
「食と農」の博物館1F 企画展示室
【主 催】
東京農業大学「食と農」の博物館
東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科 土壌肥料学研究室
【協 力】
埼玉県立川の博物館、(一社)日本土壌肥料学会
【主な展示内容】
〇まだまだ若い土壌 / 〇火山灰からできる土壌 / 〇赤い土ができるまで / 〇年老いた土壌 / 〇表面が白い土壌 / 〇森の土壌 / 〇日本にある特徴的な土壌 / 〇川が氾濫してできる土壌 / 〇触れるモノリス |
企画展「美しき土壌の世界」を企画した土壌肥料学研究室の加藤 拓 教授は語ります。
「言葉や認識としての土壌の重要性は非常に関心が高くなっていますが、私たちは普段、地下に広がっている土壌の世界を表面的にしか見ることができず、体感する機会がほとんどないのが現状だと思います。この企画展を通じて土壌の世界を体感して欲しい」
そんな加藤教授に、土壌について解説をしていただきました。
■土壌とは?
「土壌とは環境です。では、環境とは何でしょうか。環境は生物が存在するために必要な非生物的な要素や条件を含む領域や状態です。生物を人間、土壌を住宅と置き換えるとわかりやすいと思います。住宅は人間が住むことで住宅としての意味を持ちます。住宅はそこに住む人間の生活空間です。住宅は、それを構成する柱材や床材や壁材を指して住宅とは言いません。住宅は柱材や床材や壁材で形成された構造体です。土壌も、岩石が風化や侵食によって砕かれたり、地下水や河川によって運ばれたりしてできた粒子や鉱物からなる無機物と動物や植物の遺骸などが分解された有機物という材料から形成された構造体です。そして、土壌は、人間にとっての住宅と同じように、微生物や植物や土壌動物にとっての生活空間であり、環境です。兎角、私たちは本展示で見えるモノリスのような有機物や無機物で形成された物質を持って土壌と捉えがちですが、それは間違いです。この物質によって形成された構造物によって生じた空間、そして、その空間にある空気や水を含めたすべてを持って、土壌と捉えなければなりません。
この土壌という環境は、構造体を構成する無機的な材料(母材)の質、地形、気温や降水量といった気候条件、植物の多さや森と草原といった種類の違いや田んぼや畑などの土地利用の違いなどの要因によって形成されます。そのため、土壌は、これらの要因の組み合わせのバリエーションに応じて、多様性が生じてきます。
また、土壌は時間とともに変化します。土壌の生成プロセスには、数日から数十万年といった幅広い時間スケールが関わってきます。自然の作用や人間の活動によって、土壌は常に変化し続けています。例えば、無機的な材料(母材)が何かしらの岩石だった場合、岩石が時間とともに風化されて粘土鉱物といった新しい材料(鉱物)が形成されます。この風化の速度やタイプは母材の質や気候条件によって異なります。また、もう一つの材料である有機物は、微生物や土壌動物によって分解され、土壌中に新たな有機的な材料(腐植)が生成されます。この腐植の生成プロセスも時間とともに変化し、土壌の炭素の含有量や分解速度に影響します。植物が土壌で発芽し、成長するのにも時間が必要です。以上のように、土壌は時間とともに変化する環境ですし、また、変化してしまう環境だということを認識する必要があります。もし、この変化が私たち人間にとって好ましくない変化であった場合、これを修復するのは大変です。
土壌は、様々な要因の組み合わせでできた環境であると同時に、様々な要因に対して影響を及ぼします。例えば、土壌は植物の生育に不可欠な栄養素や水分を供給する場所です。根が土壌中に成長し、そこから水や栄養素を吸収して植物の成長と発育を支えています。そのため、土壌から供給される植物にとって必要な養分量が、植物の種類や量を規定する要因の一つになります。また、土壌は多様な微生物、土壌動物、植物の生活空間として機能し、生物多様性を支えています。微生物は土壌中の有機物の分解や養分循環に重要な役割を果たし、土壌動物は土壌中の有機物を分解して養分を再循環させたり、土壌の構造形成に貢献したりしています。土壌は微生物、土壌動物、植物の生活空間ですので、この空間が変化すると生物多様性の維持や養分循環に影響がでます。もし、仮に生物多様性が低下すると、生態系の安定性や機能性が損なわれる可能性がでてきますし、土壌中の元素循環が円滑に行われないと、植物への養分供給能が低下して生態系内のエネルギーフローが不安定になると予想されています。このような土壌を含めた自然環境が提供する生物に対する恩恵や利益を生態系サービスと言いますが、これらのサービスは人間の生活や経済活動に不可欠であり、人間社会の持続可能な発展に重要な役割を果たしています。土壌がもたらす生態系サービスが劣化すると、微生物多様性が減少し、土壌病害の発生が増加することで作物の収穫量や品質が低下し、食料不足や食糧安全保障のリスクが高まる可能性がでてきます。また、土壌が劣化して植生が貧弱になると、洪水や土砂災害の発生確率が高まる可能性や二酸化炭素の吸収量が減少することで温室効果ガスの放出量が増加する可能性があります。
一方で、土壌が地球上にいる全ての生物にとって好ましい変化するのであればどうでしょうか。長い歴史の中で地球は温暖化が進む時期に来ています。この事実は変わりませんが、土壌に炭素を貯めることで、地球温暖化が緩和できる可能性があります。最近の研究では、適切な土壌管理や土壌改良によって、土壌がより多くの炭素を吸収・貯留し、地球温暖化の進行を抑制することができることが明らかになっています。逆に不適切な土壌利用による土壌の劣化が土壌中の炭素の放出を増加させ、地球温暖化や気候変動の進行を加速させることも明らかになっています。地球の炭素循環において非常に重要な役割を果たしている土壌という環境をいかに理解して、地球上にいる全ての生物にとって好ましい方向に変化させるかが、これからの地球環境全体の持続的な健康を維持するために不可欠だと思います。」
■土壌肥料学研究室と加藤 拓 教授
東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科の土壌肥料学研究室では土壌の持続的な利用法に加えて、SDGsに則った廃棄資源の肥料化についての研究に取り組んでいます。加藤 拓 教授はそこで「持続的な農業生産環境を形成するための肥培管理」、「森林生態系における複数元素の循環」をテーマに研究を行っています。
4月18日(木)からの企画展「美しき土壌の世界」。
ぜひ「食と農」の博物館で体感してください。
■「食と農」の博物館
【開館時間】9:30-16:30
【休館日】日曜日、月曜日、祝日、大学が定めた日
【入場料】無料