■分析コメント
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授 山口 真一氏
023年3月の炎上事例で印象的だったのが、福岡銀行の取り付け騒ぎでした。3月4日の深夜、あるXユーザーから「福岡銀行から、3月14日に取り付け騒ぎが起こることに備えて行員に通知がありました。これは噂でも推測でもない。私を信じてください!」と投稿し、1,200件以上のリポストがされました。福岡銀行は迅速に対応し、同日午前中には公式ウェブサイトでそのような事実がないことを掲載し、それをSNSにも投稿しました。話題はすぐに沈静化し、対応は適切だったと言えます。
このような取り付け騒ぎはSNSが普及する前から存在していました。紙幅の都合上詳しくは述べませんが、女子高生3人の電車内での雑談から大規模な取り付け騒ぎにまで発展した「豊川信用金庫事件」が有名です。1973年のこの事件では、噂を根拠に大量の預貯金が短期間で引き出され、倒産危機を引き起こした事例です。
SNSが普及した現代では、このような企業に対するデマで経済的な損失を被る可能性がはるかに高まっています。また、生成AIが普及する中で、偽画像・偽動画や偽グラフ等も簡単に作成できるようになっており、今後生成AIによるデマの増加も予想されています。このような被害を完全に防ぐことはできませんが、万全の準備をしておくことで迅速に適切に対応することが可能です。以下の準備が望まれます。
1.デマの早期検知:デマを検知・モニタリングする仕組みを導入する。
2.具体的な情報共有の仕組み:社内の関連部署に迅速に情報共有する仕組みを構築する。
3.マニュアルの作成:問題が発生した際に、誰が、どの部署が、何をするのか具体的に定めたマニュアルを作成する。
4.正しい情報の発信:迅速に事実確認をしたうえで、正しい情報を多様なチャネルで発信する仕組みを構築する。
■(参考)分類基準
1.分類基準(炎上の主体)
抽出したデータは以下の表1に基づき分類しました。
(表1)分類基準(炎上の主体)
個人 |
著名人 |
芸能人、政治家、アスリート、経営者
それ以外の職業の人物については、データ確認日時点でフォロワー(もしくはチャンネル登録者、読者登録者)数が100万人を超えている場合 |
一般人 |
著名人の条件にあたらない個人 |
法人等 |
メディア以外の法人 |
メディア以外の法人、社団法人、公益団体
法人の関係者(役員、従業員など) |
メディア |
テレビ局、新聞社、出版社、ネットメディアなど |
参考:山口真一(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授):
『ネット炎上の研究「炎上の分類・事例と炎上参加者属性」』、 出版記念公開コロキウム用資料、 2016
公に情報を発信する機会の多いメディア関連の法人については、炎上に至る経緯に違いがあるため、他業種の法人と分けて集計を行っております。
2.分類基準(炎上の内容)
抽出したデータは以下の表2に基づき分類しました。
(表2)分類基準(炎上の内容)
分類名 |
詳細 |
情報漏洩 |
- |
規範に反した行為 |
法令等、規範に反した行為
暴力・暴言、著作権法違反、ハラスメントなど |
サービス・商品不備 |
サービス・商品の不備による炎上
異物混入、サービス・商品の瑕疵など |
特定の層を不快にさせる行為 |
法令等、規範に反した行為ではないものの、他者を不快にさせる行為
問題行動、問題発言、差別、偏見、SNS運用関連など |
参考:山口真一(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授):
『ネット炎上の研究「炎上の分類・事例と炎上参加者属性」』、 出版記念公開コロキウム用資料、 2016
3.分類基準(業界)
また、炎上の主体が「法人等」の場合、20の業界に分類しました。
なお、該当しない業界に関しては「その他」としてデータを処理しました。
金融 |
サービス |
食品 |
政治 |
IT |
建設・不動産 |
生活関連 |
芸能 |
メディア |
物流・運送 |
衣料・装飾 |
教育 |
自動車・機械 |
エネルギー・資源 |
飲食 |
医療 |
小売・卸 |
電機・精密 |
娯楽・レジャー |
宗教団体 |
参考:業界動向サーチ「ジャンル別業界一覧」
https://gyokai-search.com/2nd-genre.htm
■一般社団法人デジタル・クライシス総合研究所 概要
研究所名 :一般社団法人デジタル・クライシス総合研究所
設立 :2023年1月20日
代表理事 :佐々木 寿郎
アドバイザー:山口 真一(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授)
沼田 知之(西村あさひ法律事務所所属弁護士)
所在地 :東京都渋谷区神南1-19-14 クリスタルポイントビル 2F
活動内容 :
(1)国内および関係する海外のソーシャルメディアほか、媒体特性の研究
(2)国内および関係する海外のデジタル・クライシスの事例研究
(3)「デジタル・クライシス白書」の発行
(4)会員向け「デジタル・クライシス事例レポート」の発行
(5)会員向け「デジタル・クライシス研究会」の開催
(6)ソーシャルメディアの特性および炎上リスクなどを理解するための教育・研修
(7)ソーシャルメディアの特性および炎上リスクなどに関する資格認定試験の企画・運営