【横浜市立大学】VEXAS症候群の予後予測因子を全国前向き研究で同定
~末梢血UBA1変異アレル頻度が不良転帰を予測~
横浜市立大学大学院医学研究科 幹細胞免疫制御内科学 桐野洋平准教授、前田彩花助教らの研究グループは、全国的な前向き*1レジストリ研究により、VEXAS症候群*2において末梢血のUBA1変異アレル頻度(VAF)*3が、死亡または輸血依存に至る不良転帰を予測することを明らかにしました。本研究は、VEXAS症候群のリスク層別化や新規治療開発に重要な知見を提供するものです。本研究成果は、ヨーロッパリウマチ学会誌「Annals of the Rheumatic Diseases」に掲載されました(2026年4月1日公開)。
研究成果のポイント
- 2023年5月から2025年9月までに全国39施設でVEXAS症候群が疑われた127例全例でUBA1遺伝子解析を行った
- 登録時の末梢血のUBA1変異VAFとプレドニゾロン投与量が、死亡または輸血依存に関連する不良転帰因子であることを明らかにした
図1 全国VEXAS前向きレジストリ1年間の成績の概要
研究背景
VEXAS症候群は、UBA1遺伝子の後天的変異により生じる重篤な自己炎症性疾患で、主として高齢男性に発症します。皮膚、軟骨、肺、関節、血液系など多臓器に炎症を来し、感染症や血液疾患を合併しやすいことが知られています。これまで後ろ向き研究*4から重症例の存在は示されていましたが、どの患者さんが不良転帰をたどるのかを前向きに評価した研究は限られており、信頼できる予後予測因子の確立が求められていました。
研究内容
本研究では、2023年5月から2025年9月までに全国39施設でVEXAS症候群が疑われた127例を登録し、全例でUBA1遺伝子解析を行いました。その結果、66例に病的UBA1変異を認め、このうち3か月以上追跡できた60例のVEXAS症候群患者を解析対象としました。また、同年代の男性UBA1変異陰性45例をVEXAS様患者群として比較しました。VEXAS症候群患者の追跡期間中央値は343日で、疾患活動性とCRPは改善した一方、プレドニゾロン投与量中央値は1年後も10mg/日と大きく減量できませんでした。1年以内に50%の患者でグレード3以上の重篤な有害事象を認め、完全寛解*5に至らなかった患者は81.4%でした。さらに、登録時の末梢血UBA1変異VAFが高いほど、またプレドニゾロン投与量が多いほど、死亡または輸血依存という不良転帰のリスクが高いことを明らかにしました。また、VEXAS症候群と類似した症状でありながら、UBA1変異を有さない患者さんの生命予後もVEXAS症候群同様に不良でした。
今後の展開
末梢血UBA1変異VAFは、VEXAS症候群のリスク層別化の判断材料となる実用的なバイオマーカーと考えられます。現在の治療ではステロイド依存から十分に離脱できず、重篤な有害事象も多いことから、変異が入っている細胞を低下させることのできる、より安全で有効なステロイド節減治療の開発が急がれます。本研究成果は、今後の臨床試験のデザイン、患者さんの治療選択、治療効果判定指標の構築に向けて重要な基盤となることが期待されます。
研究費
本研究は、AMED免疫アレルギー疾患実用化研究事業(25ek0410107)および、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業、課題番号23809849)の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:Peripheral Blood UBA1 Variant Burden Predicts Poor Outcomes in VEXAS Syndrome: A Nationwide Prospective Study
著者:Yohei Kirino, Ayaka Maeda, Kana Higashitani, et al.
掲載雑誌:Annals of the Rheumatic Diseases
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ard.2026.03.003
用語説明
*1 前向き研究:患者を登録し、あらかじめ定めた観察項目に基づいてデータを追跡する研究手法。
*2 VEXAS症候群:2020年に発見された希少な炎症性疾患で、成人男性に主に発症する。VEXASは「Vacuoles, E1 enzyme, X-linked, Autoinflammatory, Somatic」の頭文字を取ったもので、骨髄内の多発空胞の存在、X染色体に関連したUBA1遺伝子変異、全身性の自己炎症性反応が特徴である。
*3 バリアントアレル頻度(variant allele frequency; VAF):遺伝子の変異を持つ細胞が、どれくらい混ざっているかを示す割合。今回VAFが高い患者さんの予後が悪いことが判明した。
*4 後ろ向き研究:すでにあるカルテや検査結果を振り返って調べる研究。前向き研究を始めてから対象者を追いかけて、これから先の経過を見守って調べる方法をいう。
*5 完全寛解:フランスのVEXAS症候群の後ろ向きデータに基づき提唱されたもので、①VEXAS症候群の症状がない、②ステロイド(グルココルチコイド)の投与量がプレドニゾロン換算で10 mg/日以下、③CRPが1 mg/dl以下である、という3つ全ての条件を満たした状態。
参考文献
1. Beck DB, et al. Somatic Mutations in UBA1 and Severe Adult-Onset Autoinflammatory Disease. N Engl J Med. 2020;383:2628-2638.
2. Tsuchida N, et al. Pathogenic UBA1 variants associated with VEXAS syndrome in Japanese patients with relapsing polychondritis. Ann Rheum Dis. 2021.
3. Kirino Y, et al. Low remission rates and high incidence of adverse events in a prospective VEXAS syndrome registry. Rheumatology (Oxford). 2024.
