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北里大学医学部 引地博之講師の研究グループは、震災から2年半後と5年半後に追跡調査を行い、2度にわたる集団移転/個人移転が健康にどのような影響を与えたのか検討しました。2,664名の3時点データを解析したところ、プレハブ仮設住宅への集団移転は0.79ポイントのBMI増加と1.50ポイントのうつ得点の増加に関連していましたが(また、BMI25以上を基準とする肥満にも関連)、災害公営住宅への集団移転とこれら健康指標との間に有意な関連は見られませんでした。一方、個別移転は、両時点で高次生活機能と認知機能の低下に関連する傾向が示唆されました。
集団移転は社会的結び付きを強めることで、健康維持に役立つと考えられてきましたが、プレハブ仮設団地では飲食を伴う地域の会合などが多く、それがBMI増加に結びついたのかもしれません。また、経済状況や居住環境の大きな変化が精神的健康にも影響した可能性があります(2013年に個人移転したと回答した方の半数以上が新たに購入した住宅に入居していた)。個別移転者には孤独を防止する対策をとり、集団移転者には負の影響を緩和するために、体操教室の開催や市民農園の開設によって、身体活動の機会を設けることが有効になる可能性があります。
■研究の背景
地域の社会的結び付き(ソーシャルキャピタル)には、健康を保護する役割があることが示唆されてきました。先行研究において、私たちは東日本大震災前の地域コミュニティごとにプレハブ仮設住宅に移転する集団移転方式が、震災後の社会的結び付きの維持に役立つことを示しました(Hikichi et al., 2017)。岩沼市では、東日本大震災から5年後の2016年4月に仮設住宅が閉鎖され、住民たちは新たに住宅を購入するか災害公営住宅団地に震災前のコミュニティ単位で集団移転しました。私たちは、震災から5年半後(2016年11月)に追跡調査を行い、2度にわたる集団移転/個人移転が健康にどのような影響を与えたのか検証しました。
■対象と方法
日本老年学的評価研究プロジェクト(JAGES)は、2010年8月に岩沼市在住65歳以上高齢者を対象として、くらしに関する調査を実施しました(回答者5,058名、回答率 59.0%)。その7ヶ月後の2011年3月11日に東日本大震災が発生し、死者180名、家屋被害5,542戸の被害が生じました(津波の浸水域は市域面積の約48%)。震災から2年半後と5年半後に追跡調査を実施し、2,810名から3時点調査データを取得し(追跡率68.4%)、震災前の調査時点で身体的・認知的機能に制限のない2,664名を解析対象としました。解析では、性別、年齢、教育歴、世帯年収(等価所得)、婚姻状態、就労状況、世帯構成、震災での親戚・友人の喪失の影響を考慮しました。
■結果
プレハブ仮設住宅への集団移転(51名)は0.79ポイントのBMI増加と1.50ポイントのうつ得点(GDS-15)増加に関連していましたが(また、BMI25以上を基準とする肥満にも関連)、災害公営住宅への集団移転(63名)とこれら健康指標との間に有意な関連は見られませんでした。また、プレハブ仮設への集団移転は社会的結び付きの強さと有意に関連していましたが、災害公営住宅団地への集団移転は関連していませんでした。一方、個別移転は、2013年(71名)および2016年(48名)の高次生活機能と認知機能の低下に関連することが示唆されました。
■結論
集団移転は社会的結び付きを強めることで、健康維持に役立つと考えられてきましたが、プレハブ仮設団地では飲食を伴う地域の会合などが多く、それがBMI増加に結びついたのかもしれません。また、経済状況や居住環境の大きな変化が精神的健康にも影響した可能性があります(2013年に個人移転したと回答した方の半数以上が新たに購入した住宅に入居していた)。
■本研究の意義
集団移転の負の側面も考慮する必要があることを示唆しました。個別移転者には孤独を防止する対策をとり、集団移転者には、体操教室や市民農園への参加を促すことにより、身体活動の機会を設けることが有効になる可能性があります。
■論文情報
〔掲載誌〕 Proceedings of the National Academy of Sciences
〔論文名〕 Six-year follow-up study of residential displacement and health outcomes following the 2011 Japan Earthquake and Tsunami
〔著 者〕 Hikichi, H., Aida, J., Kondo, K., and Kawachi, I.
〔DOI〕 10.1073/pnas.2014226118
〔URL〕
https://doi.org/10.1073/pnas.2014226118
本研究は、アメリカ国立衛生研究所(R01 AG042463)、文部科学省・日本学術振興会科学研究費(15H01972, 23243070, 22390400, 22592327, & 24390469)、厚生労働科学研究費補助金(H22-Choju-Shitei-008, H24-Choju-Wakate-009, H25-Choju-Ippan-003, and H28-Chouju-Ippan-002)、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S0991035)の助成を受けて実施しました。
■問い合わせ先
≪研究に関すること≫
北里大学医学部 公衆衛生学
講師 引地博之
e-mail: hikichi@med.kitasato-u.ac.jp
≪報道に関すること≫
学校法人北里研究所
総務部広報課
TEL: 03-5791-6422
e-mail: kohoh@kitasato-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/