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この度、東京薬科大学 生命科学部 幹細胞制御学研究室 伊東史子准教授、同 薬学部 薬品化学教室 林良雄教授らの研究グループは、新規開発したミオスタチン阻害ペプチド(MID-35)を用いて、がん悪液質モデルマウスの治療効果を検証し、アナモレリンとの併用治療により食餌摂取量と筋肉消耗を効果的に改善できることを確認しました。
この結果から、抗がん剤投与が難しい患者さんの状態を改善、がん悪液質治療法の新規開発に期待ができます。
【ポイント】
◆東薬大研究グループが新規開発した、骨格筋の肥大や筋肉量増加を促進するミオスタチン阻害ペプチド(MID-35)は、がん悪液質が引き起こす筋肉消耗を阻害しました。
◆日本でのみ承認されたがん悪液質治療薬・アナモレリンとMID-35の併用治療をがん悪液質モデルマウスに行うと、筋肉消耗を効果的に阻害して筋力を改善、食餌摂取量を増加させて延命につながる可能性を示しました。
◆MID-35とアナモレリンの併用治療で見られたがん悪液質改善効果からは、抗がん剤投与が難しい患者さんの状態を改善して、抗がん剤が適用できるようになる可能性もあり、今後さらに検証することが必要です。
【概要】
がん悪液質は、末期がん患者の多くで認められる体重減少(特に筋肉量の減少)を特徴とした代謝異常症候群です。がん悪液質は患者のQOLを著しく悪化させますが、がん悪液質の治療薬は日本でのみ承認されたグレリン様作用薬・アナモレリンしかありません。がん悪液質は筋肉量の減少が顕著であるため、筋肉消耗を促すミオスタチンの作用を抑制することで、がん悪液質誘導性の筋肉消耗を改善する治療薬の開発が行われてきました。臨床試験まで進んだ阻害剤もありますが、副作用などの問題により開発が中止され、臨床応用には至っていません。
今回、東京薬科大学 生命科学部 幹細胞制御学研究室 伊東史子准教授と同大学 薬学部 薬品化学教室 林良雄教授らの研究グループは、新規開発したミオスタチン阻害ペプチド(MID-35)を用いて、がん悪液質モデルマウスの治療効果を検証しました。MID-35は単独でがん悪液質による筋肉消耗を阻害しますが、アナモレリンとの併用治療により食餌摂取量と筋肉消耗を効果的に改善できることを見出しました。がん悪液質患者の治療において食事摂取量増加と筋肉消耗阻害が治療ポイントになると期待されます。
(1)研究の背景
「がん」は日本人の死亡原因第一位の疾患です。患者さんの死亡には、腫瘍転移とがん悪液質が強く影響を与えます。がん悪液質は、末期がん患者に見られる代謝異常症候群で、継続的な筋肉の減少が特徴です。そこで筋肉の消耗を抑える薬剤の開発が行われてきました。具体的には、骨格筋の増殖と分化を抑制させるミオスタチンの作用を阻害する薬剤開発が活発に行われ、これまでにミオスタチン中和抗体やミオスタチンが結合する受容体の配列を使ったFc融合タンパク質製剤など様々な製剤が開発され、臨床試験で治療効果が評価されてきました。しかし、筋肉に対する効果が十分ではない、ミオスタチン以外の因子を阻害するために副作用が起こる、などの理由でこれら製剤の開発は現時点では中断されています。現在、がん悪液質の治療薬として日本ではアナモレリンが唯一承認されています。これはグレリン様作用薬で、がん患者の食欲を改善して栄養摂取を促すことを目的としています。しかしながら欧米ではがん悪液質の治療薬は存在せず、新たな製剤の開発が求められていました。
(2)研究内容
研究グループは、既報のミオスタチンペプチドPeptie-2 (Ojima et al., Cancer Sci, 2015)をもとに、安定性と阻害活性を増強したMID-35を開発しました(ACS Med Chem Lett, 2022)。Peptide-2はミオスタチンの前駆体タンパク質に存在する、ミオスタチンに結合してその作用を阻害する領域(24アミノ酸)です。MID-35はアミノ酸の構造をすべてD-体にしているため、生体内への安定性も強化されています。
今回、がん悪液質モデルマウスに対してMID-35単独による治療効果、またアナモレリンとの併用による治療効果を検討しました。その結果、MID-35単独でがん悪液質が誘導する筋肉消耗を阻害する効果を認めました。さらに、アナモレリンとの併用により、食事量の改善、筋肉繊維の萎縮(筋肉消耗)を阻害して筋線維を太いまま維持し、筋力(grip strength)が増強されました。さらに生存率は、アナモレリン単独よりもアナモレリンとMID-35の併用により改善しました。
(3)社会的意義・今後の予定
MID-35とアナモレリンの併用治療で見られたがん悪液質改善効果からは、抗がん剤投与が難しい患者さんの状態を改善して、抗がん剤が適用できるようになる可能性もあり、今後さらに検証することが必要です。MID-35が有する筋肉消耗阻害活性は、がん悪液質以外の骨格筋萎縮が認められる疾患の治療薬として有望です。特に、高齢者でみられるサルコペニアでは、下肢骨格筋の萎縮を抑えることにより、寝たきり状態にならずに健康寿命を延長させる可能性があります。さらに先行製剤ではミオスタチンの阻害により、骨格筋の代謝機能を改善して肥満の治療、2型糖尿病の治療につながる可能性が検討されています。今後、MID-35が様々な疾患に対して有効であることを証明し、臨床応用を目指したいと考えています。
【発表論文】
雑誌名: Cancer Science
論文タイトル:Combination therapy of anamorelin with a myostatin inhibitor is advantageous for
cancer cachexia in a mouse model
著者:Kako Hanada#, Kunpei Fukasawa#, Hiroki Hinata#, Shu Imai, Kentaro Takayama,
Hideyo Hirai, Rina Ohfusa, Yoshio Hayashi, and Fumiko Itoh*
(#は筆頭著者、*は責任著者)
DOI番号: 10.1111/cas.15491
アブストラクトURL :
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/cas.15491
【取材に関するお問い合わせ先】
東京薬科大学 総務部広報課
TEL:042-676-6711 E-mail: kouhouka@toyaku.ac.jp
【研究に関するお問い合わせ先】
東京薬科大学 生命科学部 幹細胞制御学研究室
准教授 伊東 史子 (いとう ふみこ)
TEL: 042-676-5184 E-mail: fitoh@toyaku.ac.jp
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【リリース発信元】 大学プレスセンター
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