【東京薬科大学】紅藻デンプンの合成には余分なグルコース鎖を切断できるイソアミラーゼが必須であることを発見 -- デンプン誕生の分子機構に迫る --

東京薬科大学

東京薬科大学 生命科学部 環境応用植物学研究室の藤原祥子教授、秋田県立大学の中村保典名誉教授、フランス リール大学のSteven Ball教授らの研究グループは、紅藻デンプンの合成には幅広い長さのグルコースの鎖を切断できるイソアミラーゼが必要であることを発見しました。この研究は、CO2固定化技術やデンプンのメタボリック・エンジニアリングにつながり、地球温暖化抑制のための応用研究に発展することが期待できます。 【ポイント】 ■研究の背景  葉緑体の祖先と考えられているシアノバクテリアは、ほとんどの種が可溶性のグリコーゲンをつくりますが、内部共生によって生じた植物の仲間(灰色藻、紅藻、緑色植物)は半結晶性のデンプンを大量に貯蔵することができます。グリコーゲンとデンプンは、グルコースの鎖を伸ばす伸長酵素に加え、枝作り酵素と枝切り酵素のはたらきによって形作られます。 ■成果について  本研究では、デンプン誕生の分子機構に迫るために、もっとも原始的な真核光合成生物の一つと考えられる紅藻シアニディオシゾン(通称シゾン)を用いて、枝切り酵素イソアミラーゼの役割について調べました。2種のイソアミラーゼ遺伝子の欠損株を作製し、その解析を行ったところ、幅広い長さのグルコース鎖を切断できるイソアミラーゼがデンプン合成に重要な役割を果すことがわかりました。これらのことから、デンプンの誕生には、このタイプのイソアミラーゼが関与することが示唆されました。 ■今後の展望  枝の長さを一定の長さに揃えることは、デンプンの二重らせん形成に必須で、二重らせん形成はデンプンの特徴である疎水性が生じ結晶性が生まれる原因となると考えられます。今後は、さらにこの仮説を検証し、グルカン合成の進化の過程を明らかにしていきたいと考えています。得られた成果は、CO2固定化技術やユニークな形態の新規グルカン素材を開発するメタボリック・エンジニアリングにもつながり、地球温暖化抑制のための応用研究に発展することが期待できます。 【 概 要 】  大部分の紅藻は貯蔵多糖として紅藻デンプンを合成しますが、最も原始的な紅藻類イデユコゴメ綱ではシゾン以外はグリコーゲンを合成します(図1参照)。  紅藻デンプン合成におけるイソアミラーゼの役割を知るために、我々はシゾンのもつ2つのイソアミラーゼ遺伝子を壊してそれぞれの欠損株を作製し、デンプンの構造とデンプン顆粒の形態に及ぼす影響について調べました。デンプン含量は、片方の遺伝子(CMS197C)の欠損株では元の株とほとんど違いが見られませんでしたが、もう片方の遺伝子(CMI294C)の欠損株では有意に低下していました。このことから、このイソアミラーゼ(CMI294C)がデンプン合成に必須であることが明らかとなりました。また、デンプン顆粒の形態を観察すると、CMI294C欠損株ではサイズが著しく小さくなっていました(図2中央参照)。一方、CMS197C欠損株ではサイズは元の株と同じでありながら、形がドーナツ型になっていました(図2右参照)。  さらにデンプンのグルコースの鎖の長さを調べたところ、イソアミラーゼCMI294Cはグルコースの重合度12以上の比較的長い鎖を切断しているのに対し、イソアミラーゼCMS197Cは重合度3と4の超短鎖を切断していることが示唆されました。これらのことから、超短鎖を切断するイソアミラーゼ(CMS197C)は、デンプン分解時にアミラーゼやホスホリラーゼによって切れ残った短鎖を切断していると考えられ、幅広い長さの鎖を切断できるイソアミラーゼ(CMI294C)が、紅藻デンプンの枝を切り揃え、合成に重要な働きをしていることが明らかとなりました(図3参照)。  これらの研究は東京薬科大学生命科学部環境応用植物学研究室の博士前期課程(修士課程)に在籍した前野俊樹、山川宥紀、滝安洋平らを中心にして行われた研究成果です。 【原著論文】 ○雑誌名 Frontiers in Plant Science ○論文名  One of the isoamylase isoforms, CMI294C, is required for semi-amylopectin synthesis in the rhodophyte Cyanidioschyzon merolae ○著 者 Toshiki Maeno#, Yuki Yamakawa#, Yohei Takiyasu, Hiroki Miyauchi, Yasunori Nakamura, Masami Ono, Noriaki Ozaki, Yoshinori Utsumi, Ugo Cenci, Christophe Colleoni, Steven Ball, Mikio Tsuzuki, and Shoko Fujiwara(#は筆頭著者) ○論文情報   Doi:10.3389/fpls.2022.967165  Web: https://doi.org/10.3389/fpls.2022.967165 【取材に関するお問い合わせ先】  東京薬科大学 総務部広報課  TEL: 042-676-6711 mail: kouhouka@toyaku.ac.jp  秋田県立大学 企画・広報本部 企画チーム  TEL: 018-872-1500 mail: koho_akita@akita-pu.ac.jp 【研究に関するお問い合わせ先】  東京薬科大学 生命科学部環境応用植物学研究室 教授 藤原 祥子   TEL: 042-676-6713 mail: fujiwara@toyaku.ac.jp  秋田県立大学 生物資源科学部 名誉教授 中村 保典   TEL: 018-872-1652 mail: nakayn@silver.plala.or.jp  リール大学 CNRS、UMR8576-構造および機能糖鎖生物学ユニット 教授 Steven Ball(フランス)  TEL: +33-20-43-65-43 mail: steven.ball@univ-lille.fr ▼本件に関する問い合わせ先 総務部 広報課 住所:東京都八王子市堀之内1432-1 TEL:0426766711 FAX:042-676-1633 メール:kouhouka@toyaku.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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