「役員報酬サーベイ(2024年度版)」の結果を発表
報酬総額の中央値は、JPX日経400企業の社長が1.1億円、売上高1兆円以上企業の社外取締役が1,400万円で、前年から増加。人的資本経営の取組・検討は70%の企業で実施
デロイト トーマツ グループ(東京都千代田区、CEO:木村 研一)は、日本企業における役員報酬の水準や株式報酬制度等の導入状況、役員指名、コーポレートガバナンス領域も含めた中長期的な企業価値向上に資するトピックを包括的に調査した「役員報酬サーベイ(2024年度版)」の結果をお知らせします。本サーベイは2002年の開始以来20年以上にわたり実施している、役員報酬に関する日本で最大規模の調査です。今年度もデロイト トーマツ コンサルティング合同会社と三井住友信託銀行株式会社が共同で2024年6月~7月にかけて調査を実施し、プライム上場企業を中心に過去最高の1,275社が回答しました。
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【調査結果のサマリーとポイント】
■CEO・社長の報酬総額水準は前年対比で増加
JPX日経インデックス400企業におけるCEO・社長の報酬総額水準は3年連続で増加傾向にあり、中央値で113,247千円(前年比+5.4%)。変動報酬比率は前年同水準(2023年47.1%、2024年47.6%)の結果となった。
■社外取締役の報酬総額水準は前年対比で増加、女性社外取締役の登用が進む
売上高1兆円以上の企業における社外取締役の報酬総額水準は前年比で増加し、中央値で14,800千円(前年比+2.8%)の結果となった。社外取締役の30%以上が女性である企業は45.4%で(前年比+6.7ポイント)、女性社外取締役の登用による経営の多様化促進が目立つ。
■ESG指標を役員報酬に連動させる売上高1兆円以上企業は63.9%。気候変動・従業員関連指標が目立つ
ESG指標を役員報酬決定に活用している企業は全体で15.6%(前年比+2.4ポイント)。プライム上場企業で23.9%(前年比+6.5ポイント)、売上高1兆円以上の企業では63.9%(前年比+2.8ポイント)に達し、大手企業を中心に役員報酬を介したESGに対するコミットメントが徐々に浸透してきた。報酬と紐づくESG指標は、気候変動や従業員関連が多くを占めており、近年のESGの動向が反映されている結果となった。
■任意の報酬委員会、指名委員会の設置は定常化、サステナビリティ委員会の設置率は前年比+8ポイント
任意の報酬委員会を設置する企業は83.1%(前年比+1.5ポイント)、任意の指名委員会を設置する企業は78.7%(前年比+1.7ポイント)。報酬・指名以外の任意の委員会の設置率としては、リスクマネジメント委員会が59.8%、サステナビリティ委員会が53.2%で高い。特にサステナビリティ委員会は前年比8.6ポイントの増加であり、サステナビリティ経営に向けた企業の基盤づくりが進んでいるといえる。
■人的資本経営の実施企業は70%、時間や場所にとらわれない働き方が進む
人的資本経営は、70.0%の企業で何かしらの取り組みや検討・計画が実施されており(前年比+9.5ポイント)、着実に取り組みが進んでいることが示された。新型コロナウイルス感染症拡大が収束した今もなお、継続した働き方改革の影響により、業務のデジタル化推進(4.1点)、時間や場所にとらわれない働き方の施策立案(3.7点)、ハイブリットワークの推進(3.7点)などの取り組みが進んでいる。
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【「役員報酬サーベイ(2024年度版)」の調査結果】
■CEO・社長報酬総額の推移
JPX日経インデックス400企業におけるCEO・社長の報酬総額(中央値)をみると、2024年は113,247千円と、前年の107,427千円から5.4%増となった【図1】。2021年から時系列でみると、3年連続での上昇であり、報酬水準の見直しや株式報酬導入等の制度改革が実施された結果とみられる。CEO・社長の報酬水準(標準額)を引き上げた89社の理由をみると、「ベンチマーク企業の報酬水準上昇を踏まえた見直し」(58.4%)が最も多く、「役割・責任範囲の拡大による見直し」、「業績状況を踏まえた水準の見直し」(いずれも24.7%)も続いて多く挙げられた。
【図1】CEO・社長報酬総額の水準推移 (JPX日経インデックス400企業中央値)
■インセンティブ報酬
短期インセンティブ報酬を導入している企業の割合は全体で74.7%(952社)で前年(73.7%)と同水準、プライム上場企業における導入割合は88.1%(577社)であった。全体で種類をみると、「損金不算入型の賞与」の導入企業が58.3%(555社)で、前年(55.8%)に引き続き最も多かった。設計の自由度が高いことが背景にある。
長期インセンティブ報酬(株式関連報酬)を導入している企業の割合は全体で79.0%(1,007社)で、前年(76.8%)より2.2ポイント増加した。プライム上場企業に限ると91.9%(602社)で既に導入が進んでおり、定着がみられる。採用されている長期インセンティブ報酬の種類は「譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)」が35.8%(456社)で最も多かった。次いで「業績連動型株式交付信託」を採用している企業が14.7%(188社)だった。なお、長期インセンティブ報酬を導入している1,007社のうち、社外取締役向けにも長期インセンティブ報酬を導入している企業は12.1%(122社)にとどまった。
また、従業員向けに長期インセンティブプランを導入済ないし導入を検討している企業は全体の約半数(48.2%)に及んだ。導入済企業のうち、譲渡制限付株式が94社(27.9%)、次いで業績連動型・非連動型株式交付信託が合算で87社(25.8%)となっている。社員のエンゲージメントレベルの向上や人材の確保、リテンションの観点からも今後の導入増加が見込まれる。
■業績指標
トップエグゼクティブの報酬に採用されている指標は、「営業利益」が、短期インセンティブ報酬(42.7%)、長期インセンティブ報酬(40.1%)ともに最も多かった。短期インセンティブ報酬では「当期純利益」(29.4%)が続き、売上や利益をKPIとすることが一般的となっている。長期インセンティブ報酬では、「ROE」(23.8%)が続いた。また、資本コストや株価を意識した経営に伴い、株主価値を捉える指標の採用が徐々に増えてきており、「TSR」が7.6%(前年比+2.9ポイント)、「EPS」が2.7%(前年比+0.1ポイント)であった。
近年の気候変動対応や人的資本経営の要請に伴い、ESG指標を役員報酬評価に採用する企業も年々増加している。短期もしくは長期インセンティブ報酬のいずれかを導入し、それら報酬にESG指標を連動させる企業割合は、プライム上場企業で23.9%(前年比+6.5ポイント)、売上高1兆円以上の企業では63.9%(前年比+2.8ポイント)に達した【図2】。大手企業を中心に、役員報酬を介したESGに対するコミットメントが仕組み化されてきたといえる。採用が多いESG指標は「従業員エンゲージメント」80社、「CO2排出量」67社、「女性管理職比率」56社、「GHG排出量」50社と、気候変動および従業員関連指標が先行している。
【図2】役員報酬におけるESG指標の活用状況
■マルス条項・クローバック条項の導入状況
報酬制度の見直しにあたり、重要な検討項目の一つが報酬におけるリスク管理である。2015年のコーポレートガバナンス・コードの適用開始以降、役員報酬制度の整備・進展に伴い、不正防止や過度なリスクテイクの抑制を目的としてマルス条項・クローバック条項の導入・検討が進んでいる。JPX日経インデックス400企業におけるマルス条項導入済企業は64.8%(92社)で前年(54.0%)より10.8ポイント増加した。一方、クローバック条項導入済企業は24.6%(35社)で前年(23.7%)とほぼ同水準であった。現在検討中の企業を含めるとマルス条項で69.0%、クローバック条項で35.2%の企業にいたる。米国・英国では業績連動報酬に対するマルス条項・クローバック条項の適用は一般的となっており、大手企業を中心に、日本においても導入が進んでいる。今後、報酬水準・インセンティブ報酬比率の上昇に伴い、導入がさらに進んでいくと見込まれる。
■社外取締役の質・量の確保
政府や投資家からの社外取締役の登用要請に伴い、社外取締役の獲得競争が続いている。全取締役に占める社外取締役の人数割合が1/3以上の上場企業は89.2%(前年比+4.1ポイント)であった。過半数を確保している上場企業は19.4%(前年比+3.8ポイント)で、社外取締役の登用増加により、独立した監督体制が強化されていることが伺える。売上高1兆円以上企業における社外取締役の報酬総額水準は、中央値で14,800千円と、前年から400千円増加した。今後、優良な人材を確保・育成することが重要となるが、上場企業において、社外取締役の人材プールを確保していると回答した企業はわずか4.5%(50社)にとどまった。
また、多様性促進の要請の高まりにより、女性社外取締役の登用が目立っている。社内取締役の30%以上が女性である上場企業は2.4%であるのに対し、社外取締役の30%以上が女性である上場企業は45.4%(前年比+6.7ポイント)に及んだ。女性社外取締役の登用による多様性確保に多くの企業が依存している現状であるといえる。社内女性役員候補人材の育成等を通じて、社外取締役への依存から脱却するための対応が、社会全体で必要である。
■任意の報酬委員会、指名委員会、その他の委員会
2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂に伴い、任意の報酬委員会、指名委員会の設置が継続して進んでいる。指名委員会等設置会社を除く上場企業のうち、任意の報酬委員会を設置している企業の割合は83.1%(900社)と前年より1.5ポイント増加し、任意の指名委員会を設置している企業の割合は78.7%(852社)と前年より1.7ポイント増加した。このうち、663社は任意の指名・報酬委員会であり、指名・報酬に関する機能を両方持っている。報酬および指名領域以外で企業が任意に設置している委員会として多く回答されたのは、リスクマネジメント委員会(59.8%)、サステナビリティ委員会(53.2%)であり、サステナビリティを取り込んだガバナンス体制の強化が進んでいる。リスクマネジメント委員会は前年比4.5ポイント増、サステナビリティ委員会は前年比8.6ポイント増の変化がみられた。2023年6月にIFRSサステナビリティ開示基準が公表され、日本でもサステナビリティ基準委員会(SSBJ)による2024年度中の基準策定が目指されている。サステナビリティの取り組み開示は待ったなしの状況であり、サステナビリティ委員会の設置・経営との連携がさらに進んでいくと考えられる。
■海外子会社ガバナンス
海外子会社を有する企業において、現地CEO・社長の報酬を国内親会社のCEO・社長が決定する企業は46.6%と、約半数に及んだ。CEO・社長以外の現地役員の報酬については、現地CEO・社長が国内親会社と協議しながら決定する企業が34.8%で最も多かった。
海外子会社役員の報酬決定に親会社が関与する432社に、報酬ガバナンスの課題を尋ねたところ、「グループ全体で共通の報酬評価制度の枠組みが整備されていないこと」を挙げる企業が52.8%で最多。次いで「現地の報酬制度にかかる税制・法令等の情報収集が困難」と感じている企業が43.3%、「現地における適切な報酬水準がわからない」を挙げた企業が36.1%であった。多くの企業で海外子会社のガバナンスに関し、課題を有している。
■人的資本経営の取り組み
2023年3月期より、有価証券報告書において人的資本に関する戦略並びに指標・目標の開示が求められており、企業の取り組み・開示に、投資家やステークホルダーからの関心が高まっている。人的資本経営の取り組み・検討を実施している(完了含む)企業は70.0%(893社)で、前年(60.5%)より9.5ポイント上昇した。人的資本経営の取り組みが着実に進んでいることが伺える。一方、検討・計画に着手できていない企業は24.9%(前年31.0%)であり、中でもグロース上場企業および非上場企業は、その割合が過半数に及んでいる(それぞれ、51.5%、58.0%)。検討・計画に着手できていない企業の割合は前年より減ってはいるものの、人的資本経営の取り組みは今後も継続して取り組むべきテーマの一つとなっている。
人的資本経営の検討・取り組み内容は、「業務のデジタル化推進」(4.1点)や「時間や場所にとらわれない働き方の施策立案」(3.7点)、「ハイブリットワークの推進」(3.7点)が先行する結果であった。新型コロナウイルス感染症拡大が収束した今もなお、働き方改革の影響が寄与しているといえる。一方、CHROの設置やリスキル(いずれも2.1点)は依然として未対応企業が目立つ。【図3】
また、人的資本経営の検討・取り組みを進める企業における人的資本経営の課題としては、「経営戦略実現に資する人材の確保・育成」(48.4%)、「社員のエンゲージメントレベルの向上」(39.1%)、「経営戦略と人事戦略の連動」(38.3%)が挙げられた。企業独自のストーリーを描き、求められる対応を適切に把握していくことで、人的資本系の取り組みを促進させていくことが期待される。
【図3】人的資本経営の具体的な検討状況(Level平均)
【調査概要】
調査期間:
2024年6月~7月
調査目的:
日本企業における役員報酬の水準、役員報酬制度やガバナンス体制、コーポレートガバナンス・コードへの対応状況等の現状に関する調査・分析
参加企業数:
1,275社(集計対象役員総数 23,214名)
上場企業1,116社(うちプライム上場企業655社)、非上場企業159社
参加企業属性:
製造業526社(うち医薬品・化学113社、電気機器・精密機器114社、機械83社等)、非製造業749社(うち情報・通信169社、サービス152社、卸売107社 等
<役員報酬サーベイ(2025年度版)について>
役員報酬サーベイは、2025年度も継続して実施する予定です。
詳細が確定しましたら、別途当社Webページにてご案内します。
なお、調査協力企業にはサーベイ結果報告書(今年度は289ページ)を提供する予定です。
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