調整済みリスク比は年齢、性別、教育歴、世帯年収、主観的健康観、婚姻状況、雇用状況、慢性疾患の数を調整した上で、かかりつけ医なしに比較して何倍インフルエンザ予防接種を受けているかを表している。
研究背景
インフルエンザワクチンは全年代で推奨される予防医療である一方、接種率は依然十分とはいえません。プライマリ・ケアは予防接種実施の主要な場であり、その質の指標として近年開発されたPCPCMは11の領域を11項目で包括的に測定できる短尺度ですが、臨床アウトカムとの関連は未検証でした。本研究は、PCPCMスコアとワクチン接種という具体的アウトカムの関連を初めて評価しました。
研究内容
本研究では、2022年11月から12月にかけて、全国150万人規模のインターネット調査パネルから年代と性別がばらつくように抽出した1,112名にアンケートを送り、800名(回答率約72%)の回答を得ました。質問票では、①ふだん健康相談に行く「かかりつけ医療機関」があるか、②その医療機関での受診体験を11項目で評価する「PCPCM」スコア、③過去1年以内にインフルエンザワクチンを受けたか、を尋ねました。
回答を分析したところ、かかりつけ医を持たない人の接種率は22%だったのに対し、かかりつけ医をもち、かつ、PCPCMスコアが最も高い人たちでは54%と、2倍以上の開きがありました。年齢・性別・学歴・収入など生活背景を考慮して計算し直しても、この差は統計的に確かでした。また、PCPCMスコアを4段階に分けて比較すると、スコアが一段階上がるごとに接種率が着実に上昇しており、PCPCMで測定されるプライマリ・ケアの質が高いほどワクチン接種が高いことが示されました(図1)。
今後の展開
PCPCMは28言語に翻訳され世界で利用が拡大しています。本研究は同尺度が臨床アウトカム改善と結び付く可能性を示した最初のエビデンスであり、各国でのプライマリ・ケアの質の測定を後押しする成果です。今後は他の予防医療や慢性疾患に関するアウトカムとの関連を検証し、因果推論を可能にする縦断研究などを私たちの研究チームで行っていく予定です。また、今回の成果をきっかけに諸外国の研究者によるこの領域の研究の更なる進展が期待されます。
研究費
本研究は、JSPS科研費 JP24K02670の助成、および横浜市立大学第5期戦略的研究推進事業の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:Higher Person-Centered Primary Care Measure Score Is Associated with Better Influenza Vaccine Uptake: A Nationwide Cross-sectional Study
著者:Makoto Kaneko, Hironori Yamada, Tadao Okada
掲載雑誌:Family Practice
DOI:
https://doi.org/10.1093/fampra/cmaf030
用語説明
*1 患者中心のプライマリ・ケア評価尺度(PCPCM):プライマリ・ケア(身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療)は、病気に至る前の状態での健康相談や予防医療など、幅広い領域にまたがる。その質の評価尺度PCPCM(Person-Centered Primary Care Measure)は、患者さんの視点からプライマリ・ケアの医療機関の質を評価する質問紙で、11項目という少ない質問数でプライマリ・ケアにとって重要な11の領域を評価できる点、プライマリ・ケアの質を国際的に比較できる点が特徴となっている。横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻 金子惇准教授らの研究グループがPCPCMの日本版を開発し、2022年5月に発表。
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2022/202205kanekomakoto.html