昭和医科大学(東京都品川区/学長:上條由美)の吉本隆彦准教授(医学部衛生学公衆衛生学講座)、小風暁教授(同)らの研究により、全国の就業者1万人への調査で、約3人に1人が健康問題によって仕事の生産性が低下している実態が明らかになりました。最も多かった要因は腰痛で、年間の生産性損失は1,000人あたり約6,500万円にのぼると試算されました。本研究成果は、国際学術誌『Journal of Occupational and Environmental Medicine』(2025年4月号)に掲載されました。今後、企業の健康経営推進や産業保健政策の検討に活用されることが期待されます。
■研究の背景・目的
働き方の多様化や高齢労働者の増加が進む中、労働者の健康状態が仕事のパフォーマンスに与える影響が注目されています。近年は、欠勤(アブセンティーズム)だけでなく、健康問題を抱えながら働き続けることで生産性が低下する「プレゼンティーズム」が、企業の経済的損失につながる重要な課題とされています。これまでの研究はCOVID-19以前に実施されており、パンデミックを契機にライフスタイルや働き方が変化したポストコロナ時代の実態は十分に明らかになっていませんでした。本研究では、全国の就業者1万人を対象に調査を行い、健康問題と労働生産性の関係について分析しました。
■研究内容および成果
本研究は、吉本隆彦准教授(昭和医科大学医学部衛生学公衆衛生学講座)、小風暁教授(同)、松平浩医学博士(テーラーメイドバックペインクリニック)らの研究チームが、日本人労働者におけるプレゼンティーズム(出勤していても健康問題によりパフォーマンスが低下している状態)の実態と、それに起因する経済的損失を明らかにすることを目的に実施したものです。
2023年2〜3月に全国20〜69歳の就業者1万人を対象としたインターネット調査を実施しました。質問票では、過去4週間において仕事に影響を及ぼした健康問題の有無や具体的な症状、仕事への影響度合い(パフォーマンスの低下)などを尋ねました。
回答者の約3分の1が何らかの健康問題で仕事の質・量が低下しており、腰痛・首肩こり・メンタルヘルスが主因でした。損失額は最大要因である腰痛で年間約6,480万円/1,000人と試算され、経営上無視できない"隠れたコスト"が明らかになりました。
本研究は、厚生労働科学研究費補助金により実施され、研究成果は国際学術誌『Journal of Occupational and Environmental Medicine』2025年4月号に掲載されました。
■研究成果のポイント
1.全国1万人調査で、35.6%の労働者が過去4週に仕事へ影響を与える健康問題を経験。
2.最大の要因は腰痛で、1,000人あたり年間約6,480万円(48.8万USD)の経済損失。 首の痛み・肩こり約4,600万円、メンタルヘルス不調約4,340万円と続く。
3.20代ではメンタルヘルス不調、30代では首の痛み・肩こり、40代以降では腰痛が最も多い健康問題。
4.企業の生産性向上には、メンタルヘルス対策に加え、腰痛・肩こり対策の導入が急務。
■社会的意義
・人手不足が深刻化するポストコロナ時代において、生産性確保は企業の最重要課題です。
・「健康経営」の分野でもプレゼンティーズムは、欠勤と並んで注目される重要な健康指標であり、これまで見過ごされてきた「働きながらの生産性低下」に着目した対策が求められています。
・健康経営の投資対象を"可視化"することで、エビデンスに基づく適切な腰痛・肩こり予防プログラムの導入を後押しします。
■掲載論文
・タイトル: Presenteeism Caused by Health Conditions and Its Economic Impacts Among Japanese Workers in the Post-COVID-19 Era
・著者: Takahiko Yoshimoto, Ko Matsudaira, Hiroyuki Oka, Satoshi Kasahara, Akatsuki Kokaze, Shinsuke Inoue
・雑誌: Journal of Occupational and Environmental Medicine 67(4): e227-e232, 2025
・DOI: 10.1097/JOM.0000000000003319
■研究代表者コメント
腰痛や肩こりは当たり前の不調と軽視されがちですが、企業にとっては大きな経済的損失を招く可能性があります。生活習慣病やメンタルヘルスへの対策と同様に、腰痛と肩こりへの適切な対策を"生産性を高め、働き続けるための基盤"として捉える必要があります。しかしながら、腰痛や肩こりへの対策の現状は、個人任せになりがちです。労働生産性へのインパクトが最も強いことを鑑みると、企業にとって標準的に実施すべき対策とすることが望まれます。
▼本件に関する問い合わせ先
昭和医科大学 医学部衛生学公衆衛生学講座 准教授
吉本 隆彦
TEL: 03-3784-8134
E-mail: yoshimotot@med.showa-u.ac.jp
▼本件リリース元
学校法人 昭和医科大学 総務部 総務課 大学広報係
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