【日本大学】カテーテルによる不整脈治療 高齢者でも生活機能を保ち、健康寿命を延ばす可能性

日本大学

【概 要】  日本大学医学部循環器内科学分野の奥村恭男主任教授を中心とする全国47施設による 大規模多施設共同研究「REHEALTH AF Study」の成果が、米国心臓病学会(ACC)が発行する不整脈分野のトップジャーナルであるJACC: Clinical Electrophysiology(JACC:EP)誌に掲載されました。  本研究で80歳以上の高齢心房細動(Atrial Fibrillation: AF)※1患者において、カテーテルアブレーション※2と呼ばれるカテーテルを使った治療法が症状、生活の質の維持改善や健康寿命を延ばす可能性があることを明らかにしました。日本が世界に先駆けて直面する「超高齢社会」における心房細動治療のあり方を明らかにした点で、臨床的にも社会的にも意義深い成果といえます。 【論文情報】  論文タイトル:Catheter Ablation Outcomes and Life Expectancy in Very Elderly Atrial Fibrillation Patients: REHEALTH AF Study  掲載誌:JACC: Clinical Electrophysiology  DOI: 10.1016/j.jacep.2025.10.007  掲載日:2025年11月14日(オンライン先行公開)  対象:全国47施設、80歳以上AF患者  研究代表者:日本大学医学部 循環器内科学分野 教授 奥村恭男  筆頭著者:日本大学医学部 循環器内科 平田 脩 【研究の背景】 心房細動(Atrial Fibrillation: AF)は、加齢とともに増加し、80歳以上では10人に1人が罹患するとも言われています。一方で、カテーテルアブレーションは若年から中年層での有効性が確立しているものの、高齢者では適応や安全性に関するエビデンスが乏しいのが現状でした。 【研究内容】 REHEALTH AF Studyは、日本全国47施設が参加した前向き観察研究で、80歳以上の心房細動患者702例を対象に、以下のグループ(群)で比較し,「予後、症状改善、生活の質(QoL)」への影響を検証しました。  ・アブレーション施行群:249例  ・アブレーション非施行群(内科的治療群):454例 【主な研究結果】  ・アブレーション施行群(平均年齢83歳)では、「主要複合エンドポイント※3(脳梗塞、 一過性脳虚血発作、全身塞栓、心血管イベント、出血、全死亡)」は、単変量解析※4では有意差なしでしたが、傾向スコアマッチング※5及び多変量解析※6で調整後に有意に改善しました。  ・症状や生活の質(EQ-5D※7)はアブレーション後に明確に改善しました。  ・フレイル※8及び認知機能(MMSE)は施行群で維持された一方、非施行群では有意に悪化しました。  ・施行群で血液マーカー(NT-proBNP)や左房径も改善傾向を示し、心房リモデリング※9抑制効果が示唆されました。  これらの結果から、高齢であっても適切な症例選択により、アブレーションが症状や生活の質、機能予後の維持改善に寄与しうることが明らかになりました。 【本研究の意義】  本研究は、高齢心房細動患者の治療方針を考える上で重要な指針となる成果であり、今後のガイドライン改訂や、医療・介護連携の在り方にも影響を及ぼす可能性があります。  日本から世界に発信された高齢者医療のエビデンスとして、国際的にも注目される内容です。 【奥村主任教授のコメント】  「高齢だから治療できない」ではなく、高齢でも治療する価値があるというメッセージを届けたい。日本が世界の超高齢社会モデルとして、科学的エビデンスを自ら発信できたことを誇りに思います。今後も、より安全で効果的な治療を追求し、高齢患者の"健康寿命"を支える医療を目指します。 【用語解説】  ※1 心房細動(Atrial Fibrillation: AF)  心臓の中の「心房」という部屋が細かくふるえ、正常なリズムで拍動しなくなる不整脈の一種です。脈がバラバラになり、動悸・息切れ・疲れやすさが起こることがあります。放置すると脳梗塞や心不全の原因にもなります。  ※2 カテーテルアブレーション  足の付け根などから細い管(カテーテル)を血管の中に入れ、心臓の中で不整脈の原因となる部分を焼いたり電気で変性させたりして、正常なリズムを取り戻す治療法です。体への負担が少なく、多くは数日の入院で行われます。  ※3 主要複合エンドポイント  研究の結果を評価するために設定する「最も重要な指標」です。複数の出来事(例えば、死亡・脳梗塞・心不全入院など)をひとまとめにして、全体的な治療効果を判断します。  ※4 単変量解析  1つの要素(たとえば年齢や性別など)が結果にどのように関係しているかを個別に調べる解析方法です。「まずは1対1の関係を見てみる」という段階の分析です。  ※5 傾向スコアマッチング  治療を受けた人と受けなかった人の特徴(年齢、病気の重さなど)をできるだけそろえて比較する方法です。実際に無作為に割り付ける「臨床試験」に近い条件を人工的に作るための統計的手法です。  ※6 多変量解析  複数の要素(年齢、性別、病気の重さ、治療法など)を同時に考慮して、結果に影響する要因を詳しく調べる方法です。「どの要素が本当に関係しているか」を見極めるために使われます。  ※7 EQ-5D  生活の質(Quality of Life: QOL)を数値で表すための質問票です。「歩けるか」「身の回りのことができるか」「普段の活動」「痛み」「気分」など、5つの項目をもとに健康状態を点数化します。  ※8 フレイル  加齢の影響により、心身の予備能力が低下し、回復力が弱まった状態です。  ※9 心房リモデリング  心房(心臓の上の部屋)の形や動きが、長期間の心房細動などによって変化してしまう現象です。心房が広がったり、筋肉が硬くなったりして、心房細動が治りにくくなる原因になります。 【本研究について】  本研究は研究者主導型研究であり、研究室内部資金及び一部はジョンソン・エンド・ジョンソン社の研究助成金の支援を受けて実施されました。 【問い合せ先】  奥村 恭男(おくむら やすお)  日本大学医学部内科学系循環器内科学分野  所在地:〒173-8610 東京都板橋区大谷口上町30-1  TEL: 03-3972-8111 内線8695  E-mail: okumura.yasuo@nihon-u.ac.jp  ※取材にお越しいただく際は,あらかじめ上記連絡先までご一報願います。 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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