【麻布大学】受精後の胚発生には卵子内の亜鉛が重要である



麻布大学(学長:村上賢、本部:神奈川県相模原市)獣医学部 動物繁殖学研究室の影山敦子特任助教、柏崎直巳教授、伊藤潤哉教授らの共同研究グループは、マウス卵子を用いた研究により、受精後の正常な胚発生には、卵子内への亜鉛の取り込みが重要であることを初めて明らかにしました。本研究は岡山大学、徳島文理大学、理化学研究所、東京大学、マサチューセッツ大学との共同研究です。




現在、不妊症が大きな社会問題となっており、体外受精などの生殖補助医療技術が不妊治療に用いられていますが、出産まで至る割合は低いことが知られています。その原因の一つとして、体外受精後の受精卵(胚)が途中で発生を停止することや染色体異常を起こすことなどが原因として考えられていますが、詳細は明らかとなっていませんでした。一方で成人女性の約半数が、必須ミネラルの一つである亜鉛が不足した状態であり、亜鉛が体内で不足すると妊娠しにくい状態をもたらすことも知られていましたが、亜鉛の詳細な役割は分かっていませんでした。

本研究グループは、卵子内の亜鉛の役割に着目し、卵子の細胞質内に取り込まれた亜鉛が、受精後の正常な胚発生に欠かせないことをマウス卵子や個体を用いた解析により、世界で初めて明らかにしました。 これは、日本学術振興会科学研究費基盤研究(B)、新学術領域研究(全能性プログラム:デコーディングからデザインへ)、奨励研究、研究活動スタート支援、AdAMS、笹川科学研究助成、三島海雲記念財団、麻布大学ヒトと動物の共生科学センターの助成による成果です。

本研究成果は、米国の国際学術誌「eLife」に2025年6月3日付で掲載されました。


<研究のポイント(本研究で新たに分かったこと)>
・卵子で亜鉛輸送体ZIP10遺伝子を欠損したマウスでは、卵子内への亜鉛の取り込み量が少なくなり、また産子数が減少することを明らかにしました。
・亜鉛輸送体ZIP10遺伝子を欠損したマウス卵では、受精に必要な「亜鉛スパーク(亜鉛の卵子外への放出)」が起こらないことを明らかにしました。
・亜鉛輸送体ZIP10遺伝子を欠損したマウス卵では、受精は正常に起こるものの胚盤胞への胚発生割合が低下することを明らかにし、亜鉛の卵子内への蓄積および亜鉛スパークによる放出が受精後の胚発生に必要であることを解明しました。

<背景と目的>
近年、不妊症が大きな社会問題として取り上げられています。生殖補助医療技術が不妊治療として用いられるなかで、卵子の品質を良くし、受精・胚発生現象を体内に近い状態に近づけることが重要となっています。体内で作ることができない必須ミネラルである「亜鉛」は、食事から取り入れる必要があります。亜鉛の不足が、妊娠しにくい状態をもたらすことは知られていましたが、亜鉛の詳細な役割は分かっていませんでした。研究グループは、以前より生殖機能における亜鉛の役割について注目し、研究を行っています。今回は、卵子に亜鉛を取り込む役目をもつ亜鉛輸送体ZIP10に着目し、卵子でZIP10を欠損したマウスの卵子の状態および受精現象について検討しました。

<結果と考察>
卵子で亜鉛輸送体ZIP10を欠損したマウスは卵巣内の卵胞に存在する頃から、卵子内に亜鉛イオンを取り込めず、卵子内亜鉛量が少ないことが明らかになりました。また、受精時に起こる卵子外への一過性の亜鉛の放出「亜鉛スパーク」が起きず、受精はするものの、4細胞以降への胚発生が停止してしまうことが明らかになりました。このことから、ZIP10が卵子への亜鉛の取り込みに必要であること、ZIP10によって取り込まれた細胞内の亜鉛が、亜鉛のスパークの誘起と受精後の胚発生の進行に重要であることを解明しました。

本研究結果は、受精・胚発生の分野における亜鉛のさらなる役割を解明するのに役立つと考えています。また本グループは以前に、子宮内膜におけるZIP10の重要性についても報告しています.今回の結果と合わせZIP10を介した亜鉛イオンは、卵子・胚や子宮内膜細胞に共通して、重要な役割をもつことを初めて明らかにしたものになります。今後、亜鉛に着目した生殖補助医療技術や受精・胚発生培地の開発、さらには亜鉛サプリメントによる不妊症の予防等、卵子や胚の発生能の向上に貢献する可能性が高いものであり、亜鉛の重要性を改めて見出した報告です。

<掲載論文>
掲載誌:eLife
論文リンク: https://doi.org/10.7554/eLife.106616.1
原題:The oocyte zinc transporter Slc39a10/Zip10 is a regulator of zinc sparks during fertilization in mice.
和訳:マウス卵における亜鉛トランスポーターSlc39a10/Zip10は、受精時の亜鉛スパークの制御因子である
責任著者:伊藤 潤哉(獣医学部動物繁殖学研究室、ヒトと動物の共生科学センター)

<関連情報>
プレスリリース:不育症の原因に亜鉛が関与〜妊娠の成立には子宮内膜の亜鉛が重要である〜
https://www.azabu-u.ac.jp/topics/2025/0218_45307.html

<参考情報>
●ヒトと動物の共生科学センター
麻布大学「ヒトと動物の共生科学センター」は、文部科学省・私立大学研究ブランディング事業「動物共生科学の創生による、ヒト健康社会の実現」の後継事業として、麻布大学 附置生物科学総合研究所内の研究部門に,プロジェクト研究の発展型として発足しました。研究を基軸として、それにかかわる学生の教育、そして社会とのつながりを深めることで、ヒトと動物・環境の新しい共生の形を探求し、実現することを目指します。
https://www.azabu-u.ac.jp/cooperation/post_8.html

●麻布大学について
麻布大学は、2025年に学園創立135周年を迎えます。動物学分野の研究に重点を置く私立大学として、トップクラスの実績を基盤に新たな人材育成に積極的に取り組んでおり、獣医学部(獣医学科、獣医保健看護学科、動物応用科学科)と生命・環境科学部(臨床検査技術学科、食品生命科学科、環境科学科)の2学部6学科と大学院(獣医学研究科、環境保健学研究科)の教育体制の下、ヒトと動物のよりよき関係をつなぐ専門性の高い人材育成を進めていきます。
麻布大学の概要: https://www.azabu-u.ac.jp/about/



▼本件に関する問い合わせ先
事務局 入試広報・渉外課
中山
住所:神奈川県相模原市中央区淵野辺1-17-71
FAX:042-754-7661
メール:koho@azabu-u.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

この企業の関連リリース

この企業の情報

組織名
麻布大学
ホームページ
https://www.azabu-u.ac.jp/
代表者
村上 賢
上場
非上場
所在地
〒252-5201 神奈川県相模原市中央区淵野辺1丁目17-71
連絡先
042-754-7111

検索

人気の記事

カテゴリ

アクセスランキング

  • 週間
  • 月間
  • 機能と特徴
  • Twitter
  • デジタルPR研究所