【概要】
日本大学医学部内科学系循環器内科学分野の新井陸助教、奥村恭男教授らは、補助循環装置インペラ※1を用いた患者を登録した全国レジストリー(J-PVADレジストリー)の解析結果を、循環器領域トップジャーナルである European Heart Journal に報告し、リアルワールドにおける患者群の適合性や、非該当患者の特徴を明らかにしました。
タイトル:DanGer Shock criteria and outcomes in acute myocardial infarction-related
cardiogenic shock treated with Impella: the J-PVAD registry
著者:Riku Arai, Keisuke Kojima, Daisuke Fukamachi, Yasuo Okumura, J-PVAD investigators
掲載誌:European Heart Journal
DOI:10.1093/eurheartj/ehaf787
【研究の要旨とポイント】
• 急性心筋梗塞に心原性ショック※2を合併した患者(AMI-CS※3)の予後は依然として不良であり、治療成績向上のため日々取り組みが続けられています。
• 2024年に報告された DanGer Shock 試験※4(RCT※5)では、AMI-CSに対するインペラ使用が標準治療と比べて180日死亡率を改善することが示されました。
• しかし、同試験の対象は厳格に選ばれた患者群であり、リアルワールドにおける患者群の適合性や、非該当患者の特徴は不明でした。
• 本研究では、全国データをもとにAMI-CSを5群に分類し、それぞれの頻度・特徴・予後を調査しました。その結果、DanGer Shock 試験に該当する患者は全体の約3分の1に過ぎないことが明らかとなりました。
【研究内容】
J-PVAD(Japanese Registry for Percutaneous Ventricular Assist Device)レジストリーとは、日本国内で施行された補助循環用ポンプカテーテル(インペラ)の治療成績や使用状況、患者背景などの情報を収集・解析する多施設共同の観察研究レジストリーで、生存率や予後に影響を与える因子の特定、臨床上のリスクとベネフィットの明確化、適切な安全対策の推進およびインペラの適正な使用普及に役立てることを目的としています。
本研究の結果は下図になります。
(図中の略語)
MC: Mechanical Complication(機械的合併症)
NSTEMI-CS: Non-ST-Segment Elevation Myocardial Infarction-CS(非ST上昇型AMI-CS)
• Eligible STEMI-CS※6・7 は全体の 35.6%、残りの 64.4% は非該当でした。
• OHCA※8群の累積30日死亡率は 51.3% と最も高く、Non-eligible STEMI-CS※9群は 27.6% と最も低く、多様性が認められました。
• 既知の死亡リスク因子(高齢、腎機能障害、院内心停止、VA-ECMO※10使用、低酸素脳症)は、引き続きAMI-CSにおける予後不良因子であることが確認されました。
【今後の展開】
DanGer Shock 試験に該当しない患者においても、どのような群がインペラの恩恵を受け得るのかを検討する必要があります。今後もリアルワールドデータを通じてさらなる検証を行い、AMI-CS患者の予後改善に貢献していくことを目指します。
【用語解説】
※1 インペラ
薬剤抵抗性重症心不全・心原性ショックに対する補助循環装置。左室から血液を吸引し、大動脈へ送血することで心拍出を補助し、左室負荷を軽減する。
※2 心原性ショック
心疾患によって心臓のポンプ機能が低下し、生命を維持するのに十分な血液を全身におくることができない状態。心不全の最重症型。
※3 AMI-CS
Acute Myocardial Infarction complicated with Cardiogenic Shock(心原性ショックを伴う急性心筋梗塞)
※4 DanGer Shock 試験
2024年にThe New England Journal of Medicine(NEJM)に報告。AMI-CS患者において、インペラ治療が標準治療と比較して180日死亡率を改善することを示した世界初のRCT。死亡率改善効果を示した補助循環は現時点でインペラのみ。
※5 RCT
Randomized Controlled Trial(ランダム化比較試験)
※6 Eligible STEMI-CS
STEMI-CS with eligibility for DanGer Shock trial(DanGer Shock試験組入れ基準に該当するSTEMI-CS)
※7 STEMI-CS
ST-Segment Elevation Myocardial Infarction-CS(ST上昇型AMI-CS)
※8 OHCA
Out-of-Hospital Cardiac Arrest(院外心停止)
※9 Non-eligible STEMI-CS
STEMI-CS without eligibility for DanGer Shock trial(DanGer Shock試験組入れ基準に該当しないSTEMI-CS)
※10 VA-ECMO
Veno-Arterial Extracorporeal Membrane Oxygenation(静脈-動脈体外式膜型人工肺)
【問い合せ先】
新井 陸(あらい りく)
奥村 恭男(おくむら やすお)
日本大学医学部内科学系循環器内科学分野
所在地:〒173-8610 東京都板橋区大谷口上町30-1
TEL: 03-3972-8111 内線8695
E-mail: arai.riku@nihon-u.ac.jp
okumura.yasuo@nihon-u.ac.jp
※取材にお越しいただく際は,あらかじめ上記連絡先までご一報願います。
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/