日本のさまざまな地域で、SDGsを軸にした取り組みが加速しています。その背景には、従来の枠組みよりもさらに地域の関係者が参画しやすい仕組みや、行政の支援と住民の実践が連動した新たな潮流があります。そうしたSDGsによる地域の持続的発展について、マーケティングと地域活性化の観点から総合情報学部総合情報学科の武市准教授がお話しします。
Summary
・行政の「評価・認証制度」の導入により、数値化しにくいSDGs活動の社会的価値が可視化され、地域における新たな取り組みの創出や地域活性化の連鎖につながる
・行政の支援と住民の活動を連動させるサイクルや、デジタルツールの存在が取り組みの広がりを生む
・SDGsを共通言語とした地域固有の文化の再評価が、地域のブランド力向上や持続的発展に貢献する |
生活者にとってより身近な「SDGs」という枠組みが普及する理由
──SDGsが広まっている背景について先生のお考えをお聞かせください。
私は、SDGsが登場する以前から環境マーケティングの研究に取り組んできました。同分野は持続可能な社会の実現を目指す現在の潮流と高い親和性を有しており、これまで研究してきた視点がSDGsという共通言語を得たことで、社会の中で改めて広く共有されるようになったと感じています。近年、こうした動きが広がる一因に、SDGsが身近な課題として捉えやすい点が挙げられます。従来のCSRなどの活動は企業や投資家に向けたものという側面が強く、一般の生活者にとっては少し距離のある存在でした。しかしSDGsという枠組みは、誰もが自らに関わるテーマを見つけやすく、多くの人にとって妥当だと感じられる明快さを備えています。
行政の「評価・認証制度」がもたらすメリットと波及効果
──芸術文化活動やSDGsの取り組みに対し、「評価・認証制度」を導入する意義を教えてください。
芸術文化や地域活性化の重要性は広く認識されていますが、その成果としての住民満足度や文化的な豊かさを定量的に示すことは容易ではありません。多くの場合、イベントの経済波及効果や観光客数といった目に見える数字で評価せざるを得ないのが実情です。こうした中で、行政が地域独自の活動を評価し、その意義を公的に示す仕組みを設けることには、数値では測りにくい成果に意味を持たせるという点で意義があります。たとえ経済規模が小さな活動であっても、地域の課題解決につながる仕組みが生まれれば、大きな社会的価値があると言えます。また、評価や表彰といった制度は、地域が自らの強みを見つめ直すきっかけにもなります。SDGsという強力な共通言語の下で明確な目標が示されることによって、企業や住民の参画が進みます。数字には表れにくい挑戦を評価・認証し、発信していく仕組みが、地域経済の発展と社会課題の解決を両立させる原動力となります。
例えば、豊島区では以前から芸術文化政策に力を入れており、その取り組みをさらに発展させる形で、SDGsと芸術文化を前面に掲げた施策を進めています。具体的には、住民や団体が企画するSDGsに関連した活動に対して資金支援や公共施設の利用機会を提供し、行政がそれらの活動を公的に評価・認証し、発信する仕組みを整えています。こうした制度は、住民や企業にとっても参加のメリットを生み出します。活動が行政の広報などで紹介されることは、主催者にとって一つの実績となり、達成感や次の活動へのモチベーションにつながりますし、他の住民が取り組みを知ることで、「自分も何かやってみよう」という新たな参加意欲が生まれやすくなるのです。こうした小さな成功体験を積み重ねるうちに、地域内で共通の目標意識が育まれ、行政の支援と住民の自発的な参加が相互に作用する好循環が生まれます。その結果、地域における文化活動や社会課題への取り組みが持続的に発展していくと考えています。
SDGsを通して、地域固有の文化を再評価する
──行政と住民をつなぐプラットフォームが、実効性のあるパートナーシップとして機能するために、どのような視点が必要でしょうか。
枠組みを形だけで終わらせないために、行政の施策と住民の活動がうまく連動した関係を築くことが欠かせません。先ほどお話しした豊島区の事例のように、行政が地域の活動を見いだし、公的に認定・発信していく仕組みは、こうした連携を生み出す基盤となります。
さらに近年では、デジタルツールの存在がこの流れを後押ししています。SNSを通じてポジティブな実践が広く共有され、とりわけ社会貢献への意識が高いZ世代以降の若者による情報発信が、その広がりを支える大きな推進要因になっています。SDGsの登場と参画のしやすさは、住民主体の活動を拡大させる契機となりました。行政が支援し、住民がそれを受け止めながら実践を積み重ねていくサイクルを、いかに構築するのかが、実効性のあるパートナーシップに不可欠な視点です。SDGsという枠組みは、これまで見過ごされがちであった文化芸術資源にも光を当て、それらを社会的・経済的価値として捉え直すという認識の転換を促すパワーを持っています。地域固有の資源を新たな視点で再評価し、ビジネスや行政施策と紐付けながら発信していくことが、結果として持続的な発展に寄与するのです。
武市先生が分担執筆を担当した書籍『地域創生マーケティングとSDGs』
──今後のビジョンについてお聞かせください。
豊島区における活動をさらに深化させていきたいと考えています。これまで、2014年に「消滅可能性都市」と指摘された同区が、SDGsと文化芸術を主軸にしたまちづくりによってどのような変化を遂げてきたのかについて、継続的に分析を行ってきました。これまでは主に資料に基づく分析が中心でしたが、今後は現場へ足を運び、関係者へのインタビューを通じて、地域が実際にどのような方向性を目指しているのかを解明していきたいと考えています。さらに、フィールドワークによって得られた知見を体系的に整理し、新たなまちづくりのモデルとして提示していきたいと考えています。
東洋大学総合情報学部総合情報学科准教授/博士(商学) 専門分野:経営学、マーケティング
研究キーワード:環境マーケティング/流通論/地域活性化 著書・論文等:文化芸術政策とSDGs[地域創生マーケティングとSDGs(中央経済社)]/環境問題と流通[よくわかる流通論(ミネルヴァ書房)]/地球環境問題とマーケティング[グローバル競争と流通・マーケティング(有斐閣)]