立正大学経営学部の山本仁志教授が参加する研究チームは、日本のツイッターにおけるニュースオーディエンスのイデオロギーを機械学習により高い精度で推定し、アメリカで見られるようなイデオロギーによるニュースオーディエンスの分断化は、日本では一部の例外を除いて見られないことを明らかにしました。今回の研究は香港城市大学の小林哲郎准教授を中心に、立命館大学の小川祐樹助教、津田塾大学の鈴木貴久助教との協働により進められたもので、その成果は4月6日に学術誌Asian Journal of Communicationに掲載されました。
ツイッターなどのソーシャルメディアは利用者の先有態度と一致する情報に選択的に接触することを容易にするため、たとえば保守的な人は保守系メディアをフォローし、リベラルな人はリベラル系メディアをフォローすることで、ニュースオーディエンスが分断化する可能性が指摘されています。こうした、「見たいものだけを見る」傾向がソーシャルメディア上のニュース利用で強まると、イデオロギーを軸としてニュースオーディエンスが分断化してしまい、異なる立場の人々が互いの意見を知った上で政治的争点について熟考する機会が失われ、世論が硬直化してしまう危険性があります。本研究では、日本の2014年時点で国会議員を少なくとも一人、ニュースメディアを少なくとも一つフォローしているツイッター利用者を対象に、社会調査データとソーシャルメディアデータ(フォローしている国会議員と利用者自身のツイート内容の情報)を組み合わせた機械学習を行い、従来の手法よりも高い精度で利用者の政治的イデオロギーを推定することに成功しました。
さらに、この推定モデルを用いることで60万人以上の利用者のイデオロギーを推定し、日本のツイッター上のニュースオーディエンスの分断化の程度を評価しました。その結果、NHKや大手全国紙ではフォロワーのイデオロギー的分断化は見られないことが明らかになりました。この結果は、保守系メディアとリベラル系メディアのオーディエンスの分断化が進んでいる米国とは異なる知見を明らかにしています。しかし一方で、産経新聞は保守的な利用者によってフォローされており、東京新聞はリベラルな利用者によって選択的にフォローされているという傾向も明らかにされました。これらのイデオロギー的傾向の強いフォロワーは数は少ないものの、他のメディアをフォローしない傾向があり、一部のメディアのフォロワーでは小規模なイデオロギー的分断化が生じていることが明らかにされました。
一連の研究を率いてきた小林哲郎准教授によると、これらの結果は日本の世論形成過程においてソーシャルメディアが果たしている役割を明らかにすることにつながると期待される、としています。
Asian Journal of Communicationの論文詳細
Kobayashi, T., Ogawa,Y., Suzuki, T. & Yamamoto, H. News audience fragmentation in the Japanese Twittersphere.
Asian Journal of Communication (2018).
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/01292986.2018.1458326
■山本仁志(やまもと ひとし)
立正大学経営学部教授
http://www.ris.ac.jp/keiei/info/faculty/yamamoto.html
■立正大学(りっしょうだいがく)
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