黄色ブドウ球菌食中毒の嘔吐メカニズム~小型霊長類を用いて90年越しで解明 -- 北里大学



北里大学獣医学部の小野久弥講師、弘前大学大学院医学研究科の中根明夫特任教授らによる共同研究チームは、コモンマーモセットを用いて黄色ブドウ球菌による嘔吐型食中毒の発症メカニズムを解明しました。本研究により、黄色ブドウ球菌の作る毒素「ブドウ球菌エンテロトキシン」が消化管の肥満細胞からヒスタミンを放出させ、嘔吐を引き起こすことが明らかとなりました。本件に関する論文は、2019年6月3日(アメリカ太平洋時間)付、国際学術誌『PLOS Pathogens』に掲載されました。




【研究成果のポイント】
◆コモンマーモセット(*1)を嘔吐実験のモデル動物として確立した。
◆黄色ブドウ球菌の嘔吐毒「ブドウ球菌エンテロトキシン」が消化管の肥満細胞(*2)に作用することを明らかにした。
◆肥満細胞の放出するヒスタミンが黄色ブドウ球菌食中毒の嘔吐に重要であることを明らかにした。

【研究の背景】
 黄色ブドウ球菌はヒトや動物にさまざまな病気を引き起こします。中でも黄色ブドウ球菌による嘔吐型食中毒は古くから知られてきました。1930年にアメリカのDackらにより黄色ブドウ球菌の食中毒は菌自体の感染によるのではなく、菌が食品中で作る毒素「ブドウ球菌エンテロトキシン」で起こることが明らかになりました。その後、この毒素については多数の種類があることや、毒素性ショック症候群といった別の病態の原因になることが明らかになりましたが、なぜ嘔吐を引き起こすのかは謎でした。また「ブドウ球菌エンテロトキシン」による嘔吐は、ヒトや霊長類で特に強くみられるため、霊長類を用いた研究が必要でした。

【研究内容と成果】
 ブドウ球菌エンテロトキシンは嘔吐活性を持ち、黄色ブドウ球菌による嘔吐型食中毒の原因毒素ですが、その嘔吐メカニズムはこれまで不明でした。今回、小型の霊長類であるコモンマーモセットにブドウ球菌エンテロトキシンを投与したところ、嘔吐が確認されたため、嘔吐モデル動物として確立できました。
 続いて嘔吐メカニズムを解明するために、コモンマーモセットの消化管においてブドウ球菌エンテロトキシンと結合する細胞を探したところ、ブドウ球菌エンテロトキシンが粘膜下組織の肥満細胞を標的としていることが明らかになりました。さらにブドウ球菌エンテロトキシンの作用により肥満細胞が脱顆粒(*3)を起こしていたため、肥満細胞が放出する物質が嘔吐に関わると考えられました。そこで、消化管組織にブドウ球菌エンテロトキシンを作用させたところ、ヒスタミンの放出が確認されました。さらに、脱顆粒やヒスタミンの働きを阻害する薬剤をコモンマーモセットに投与すると、ブドウ球菌エンテロトキシンによる嘔吐が抑制されることが明らかになりました。
 以上の結果から、食品とともに経口摂取されたブドウ球菌エンテロトキシンは、消化管の肥満細胞に結合し、脱顆粒を引き起こすことでヒスタミンを放出させ、このヒスタミンにより嘔吐が引き起こされることが明らかになりました。

【今後の展開】
 ブドウ球菌エンテロトキシンが脱顆粒を引き起こす仕組みを明らかにすることで肥満細胞の新たな機能が明らかになる可能性があり、腸管における種々の疾病への関与を解明する。
 また、コモンマーモセット嘔吐モデルは黄色ブドウ球菌食中毒に限らず多くの嘔吐関連疾患・薬剤副作用の解明に利用することができる。

【論文情報】
・著者:小野 久弥(北里大学獣医学部)、廣瀬 昌平(弘前大学大学院医学研究科)、成田 浩司(弘前大学大学院医学研究科)、杉山 真言(北里大学獣医学部)、浅野 クリスナ(弘前大学大学院医学研究科)、胡 東良(北里大学獣医学部)、中根 明夫(弘前大学大学院医学研究科)
・論文タイトル:Histamine release from intestinal mast cells induced by staphylococcal enterotoxin A (SEA) evokes vomiting reflex in common marmoset
・雑誌名:PLOS Pathogens
・掲載ページ:15(5): e1007803
・doi:10.1371/journal.ppat.1007803



【用語解説】
*1 コモンマーモセット:小型の霊長類であり、ゲノムの遺伝情報が明らかにされているため、ヒト疾患研究のモデル動物として注目されている。
*2 肥満細胞:顆粒を多く持つ免疫系の細胞で、アレルギーや細菌感染に関わる。顆粒の中にはヒスタミンのほか、多種多様な物質が含まれている。
*3 脱顆粒:肥満細胞が自身の持つ顆粒を細胞外に放出すること。例えば、アレルギーでは、アレルゲン(ハウスダストや花粉など)を肥満細胞が感知し、脱顆粒することでヒスタミンが放出され症状が生じる。

【問い合わせ先】
≪研究に関すること≫
○北里大学獣医学部 人獣共通感染症学
 講師 小野 久弥(オノ ヒサヤ)
 〒034-8628 青森県十和田市東二十三番町35-1
 TEL: 0176-23-4371
 FAX: 0176-23-8703

○弘前大学大学院医学研究科 生体高分子健康科学講座
 特任教授 中根 明夫(ナカネ アキオ)
 〒036-8562 青森県弘前市在府町5
 TEL: 0172-39-5033
 FAX: 0172-39-5034

≪報道に関すること≫
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○弘前大学
 弘前大学大学院医学研究科
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【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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