昭和大学(東京都品川区/学長:久光正)大学院生の黒瀧アン里さん(論文執筆当時:薬学研究科衛生薬学4年/現:薬学部病院薬剤学部門 助教)、桑田浩准教授(薬学部社会健康薬学講座衛生薬学部門)、原俊太郎教授(同)の研究論文が、日本薬学会の学術誌である『Biological and Pharmaceutical Bulletin』2021年44巻10号(2021年10月1日発行)の「Highlighted Paper selected by Editor-in-Chief」に選ばれ、本研究の概要を示すイラストが同号の表紙を飾りました。
本研究論文は、体内の脂質代謝を担う長鎖アシルCoA合成酵素6(ACSL6)の基質特異性を解析したもので、ACSL6の多数存在する分子種(バリアント)のうち、ACSL6V1がリノレン酸を、V2がドコサヘキサエン酸を良い基質とすることを明らかにしました。
体内に取り込まれた脂肪酸がさまざまな組織で利用されるためには、脂肪酸に補酵素A(CoA)と呼ばれる分子が結合し、活性化される必要があります。脂肪酸のうち、1つの分子に含まれる炭素数が多い長鎖脂肪酸にCoAを結合させアシルCoAとする酵素が、長鎖アシルCoA合成酵素(ACSL)です。ヒトを含めた哺乳類の体内には、ACSLとして、発現組織や基質特異性が異なる5種類のアイソザイム(※1)ACSL1、3、4、5、6が存在し、それぞれのアイソザイムにはさらにいくつかの分子種(バリアント)(※2)が存在します。本研究では、ACSL6の多数存在する分子種のうち、ACSL6V1がリノレン酸(※3)を、V2がドコサヘキサエン酸(※4)を良い基質とすることを明らかにしました。
本研究では、昭和大学の研究グループが新しく開発した質量分析装置によるACSLの酵素活性測定系(関連文献1、2)を用い、ACSL6V1とV2の組換えタンパク質の酵素活性を測定しました。その結果、ACSL6V1とV2はいずれも幅広い脂肪酸にCoAを結合させる活性をもち、パルミチン酸やオレイン酸といった脂肪酸には同程度の活性を示したものの、リノレン酸に対してはV1の方が、ドコサヘキサエン酸(DHA)やドコサペンタエン酸(DPA)などの炭素数22の高度不飽和脂肪酸に対してはV2の方が顕著に高い活性を示すことを明らかにしました。おのおのの脂肪酸はそれぞれ固有の機能を有しており、特に、DHAは脳の認知機能に関わることが知られています。本研究成果をもとに、今後脳の中でどのようにDHAが使われていくかが明らかになっていくことが期待されます。
【用語解説】
(※1)アイソザイム:一つの生物の中で同じ生体反応を触媒しているにも関わらず構造が異なる一群の酵素群のこと。多くの場合、タンパク質の一次構造がわずかに異なっている。
(※2)バリアント:単一の遺伝子に由来する一連のタンパク質のこと。
(※3)リノレン酸:1分子に含まれる炭素数18、炭素-炭素二重結合が3つの脂肪酸。二重結合の位置の違いにより、オメガ3脂肪酸に含まれるα-リノレン酸、オメガ6脂肪酸に含まれるγ-リノレン酸がある。α-リノレン酸には血圧低下作用が報告されている。
(※4)ドコサヘキサエン酸:1分子に含まれる炭素数22、炭素-炭素二重結合が6つのオメガ3脂肪酸。脳や精巣に多く含まれ、脳の認知機能に関わることが知られている。
【発表論文名】
雑誌名:Biological and Pharmaceutical Bulletin
論文名:Substrate specificity of human long-chain acyl-CoA synthetase ACSL6 variants.
(邦題:ヒト長鎖アシルCoA合成酵素ACSL6分子種の基質特異性)
著者名:Anri Kurotaki, Hiroshi Kuwata, Shuntaro Hara.
(黒瀧 アン里、桑田 浩、原 俊太郎)
掲載日時:2021年10月1日
DOI: 10.1248/bpb.b21-00551.
【関連論文】
1) Kuwata H et al. (2019) Biochim Biophys Acta 1864:1606-1618
2) Shimbara-Matsubayashi S et al. (2019) Biol Pharm Bull 42: 850-855
▼本件に関する問い合わせ先
昭和大学 薬学部 社会健康薬学講座 衛生薬学部門 教授
原 俊太郎(はら しゅんたろう)
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Mail: haras@pharm.showa-u.ac.jp
▼本件リリース元
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