次に国内本社および国内子会社が2020年から2021年にかけて経験したクライシスの種類を確認したところ、「自然災害関連」が2020年は30.9%、2021年は24.6%とともに最多となりました。特に、金融業において2020年の50.0%から2021年は77.8%と回答割合が増加しました。また、COVID-19感染拡大に伴うまん延防止等重点措置や各種経済活動の停滞をうけ、経済環境関連のクライシスに対する回答割合も引き続き高い割合を示し、特に卸・商社業においては、2020年が0%であったのに対し、2021年が11.1%となり、世界的な物流の停滞に関する危機感が現れたものと考えられます。
COVID-19の影響を受けて、優先して着手が必要と思われる対策については昨年3位の「リモートワークの推進」(41.4%)が昨年の28.0%から大きく増加し、本年は1位になりました。次いで「企業戦略の見直し」(27.1%)、「危機管理体制強化」(26.5%)、「ペーパーレス化の推進」(21.5%)、「業務プロセスの標準化」(17.2%)と続きました(図表2)。特に、企業経営・ガバナンス、業務オペレーションといった分野での対策が急務であることがうかがえます。
COVID-19対応に関してはリモートワークのインフラが一定整備されてきたものの、ニューノーマルにおける顧客や従業員とのコミュニケーションをどのように最適化すべきか悩んでいる企業が多いと言えます。特に、採用・研修・業務指示・監督・評価がオンラインで完結する環境において、どのように従業員エンゲージメントを高めるかといった質の議論に移っています。またCOVID-19の影響を受けて市場ニーズ、自社体制、サプライチェーンが変化する中で、経済社会の不確実性に対して戦略目標や打ち手をアップデートしたいというニーズが急増しています。加えて、直近の世界の動向から地政学リスクも顕在しており、有事対応のあり方も問われています。本調査結果は2021 年段階ではありますが、ベンチマーキングとしてリスクマネジメントの見直しの際の参考となれば幸いです。
アジア拠点が考える優先して着手が必要なリスクは、継続するCOVID-19の影響により「疫病の蔓延(パンデミック)等の発生」(33.8%)に関するリスクが、昨年に引き続き1位となりました。2位以下は、「人材流出、人材獲得の困難による人材不足」(27.9%)、「原材料ならびに原油価格の高騰」(26.8%)、「市場における価格競争」(19.4%)、「サプライチェーン寸断」(17.2%)となり、2020年から引き続きCOVID-19に伴う人流の制限や工場の操業停止などを余儀なくされた企業が多く発生したことが要因と考えられます。
特に「原材料ならびに原油価格の高騰」については、昨年10位から今年は3位と大きく順位を上げ、半導体不足や、原油の協調減産といった事象が日本のみならず、アジア拠点にも大きな影響を及ぼしていることが見て取れます。一方で昨年3位だった「法令順守違反」(7.8%)については、相対的に関心が低下する結果となりました。その他、「従業員の不正・贈収賄等」が高位に位置し、引き続き本リスクに注目する企業の姿が浮かび上がります。(図表3)
・アジア拠点の不正の種類は会社資産の横領に加え、経費・購買の不正支払
アジア拠点の不正について確認したところ、27.6%の企業が「不正顕在化またはその懸念あり」と回答しており、2019年の46.6%、2020年の38.8%から減少し続けています。これは、引き続きCOVID-19の影響により交際費の利用や出張の機会が減少し、それに伴う不正が減ったことや、COVID-19対応に追われて業務側でのモニタリングや内部監査が十分に行えず、不正発覚が遅れていることが原因と考えられます。不正の種類としては「在庫・その他資産横領」(29.3%)、「購買に関する不正支払」(27.8%)、「経費に関する不正支払」(26.3%)が上位に入っており、コロナ禍で給与水準が伸び悩む中で個人の不正利得を目的とした資産流用に関する不正が増えていることが考えられます。一方で不正に関与し、最も大きな被害を与えた犯行者の職位については「経営者・役員」が2020年の4.8%から2021年は8.6%と増加しており、経営者・役員の不正をけん制する内部統制、内部監査の実施が必要と言えます。
次に、不正が発生した部署に関しては、「営業部」が39.6%と最多となり、続いて「購買部」(25.9%)、「その他」(19.3%)、「製造部」(18.8%)となり、取引先との接触の多い部署での不正が引き続き多いことが分かります。また、前回に引き続き営業部における不正が多いのは、経費や賄賂に関する不正支払の他、顧客情報の不正利用や漏洩が関連すると想定されます。
調査概要
<日本版>
2021年10月中旬~10月末に、デロイト トーマツ グループが日本の上場企業約3,500社を対象にアンケート形式で調査を実施し、有効回答数は377社となりました。詳細な調査結果は「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査 2021年版」を参照ください。なお、本調査における「リスクマネジメント」と「クライシスマネジメント」の用語については、以下のとおり定義しています。
○リスクマネジメント:
企業の事業目的を阻害する事象が発生しないように防止する、その影響を最小限にとどめるべく移転する、または一定範囲までは許容するなど、リスクに対して予め備え、体制・対策を整えること
○クライシスマネジメント:
どんなに発生しないよう備えても、時としてリスクは顕在化し、企業に重大な影響を与えるクライシスは発生し得ることを前提に、発生時の負の影響・損害(レピュテーションの毀損含む)を最小限に抑えるための事前の準備、発生時の迅速な対処、そしてクライシス発生前の状態への回復という一連の対応を図ること
調査目的
国内上場企業における、「リスクマネジメント」および「クライシスマネジメント」の対応状況を把握し、現状の基礎的データを得ること
本調査の実施および結果の開示を通じ、国内上場企業における「リスクマネジメント」ならびに「クライシスマネジメント」の認識を高めること
調査対象
日本国内に本社を構える上場企業より、売上の上位 約3,500社を対象
(有効回答数:377社)
調査方法
2021年10月中旬~10月末に、郵送による調査を実施
調査項目
【第1部】・・・上場企業が着目しているリスクの種類
【第2部】・・・上場企業が経験したクライシスの分析
【第3部】・・・上場企業のCOVID-19に対する対応状況
※本調査ならびに本ニュースリリース中の数値は小数点第2位を四捨五入しているため、合計値が100%にならないことがあります。
<アジア版>
2021年11月~12月に、デロイト トーマツ グループがアジア地域(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国、台湾およびインド)に進出している日本企業の関係会社に対し、各地域にあるDeloitteのRisk AdvisoryおよびJapanese Services Group (JSG)の協力を得て5年目となる調査を実施し、有効回答数は717件となりました。詳細な調査結果は「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査2021年版」を参照ください。なお、本調査における「リスクマネジメント」の用語については、日本版と同様に定義しています。
調査目的
アジア(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国、台湾およびインド)に進出している日本企業における、「リスクマネジメント」の対応状況、特に不正については詳細の対応状況を把握し、現状の基礎的データを得ること
調査の実施および結果の開示を通じ、アジア進出日本企業における「リスクマネジメント」の認識を高めること
調査対象
アジア地域(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国、台湾およびインド)に進出している日本企業の子会社(地域統括会社含む)
有効回答数:717件
調査方法
2021年11月~12月に、Webによる調査を実施
調査項目
【第1部】アジアにおけるリスクマネジメント
【第2部】アジアにおける不正の発生状況
※本調査ならびに本ニュースリリース中の数値は小数点第2位を四捨五入しているため、合計値が100%にならないことがあります。