東京薬科大学薬学部 臨床微生物学教室 中南秀将教授の研究チームは、尋常性痤瘡(ニキビ)の発症と増悪に関与するCutibacteirum acnes(アクネ菌)の増殖を阻害する新規抗菌ペプチドAvidumicinを発見しました。ニキビの治療には、アクネ菌の増殖を抑えることを目的として抗菌薬が使用されています。しかし、アクネ菌の薬剤耐性化が世界中で問題となっており、治療効果の低下が危惧されています。Avidumicinは薬剤耐性アクネ菌にも有効で、薬剤耐性を生じにくい抗菌ペプチドであることから、従来の抗菌薬治療のデメリットを克服できる新規ニキビ治療薬のシーズとして期待できます。
【ポイント】
■ニキビ患者ではアクネ菌の薬剤耐性化が問題となり、治療効果の低下が危惧されています。
■アクネ菌を含む一部の近縁種に対して特異的な抗菌作用を示す抗菌ペプチドAvidumicinを発見しました。
■Avidumicinは従来の抗菌薬治療のデメリットを克服できる新規ニキビ治療薬のシーズとして期待できます。
【 概 要 】
思春期に多くの人が経験する尋常性痤瘡(ニキビ)の発症・増悪には、皮膚常在菌であるCutibacteirum acnes(アクネ菌)の過剰増殖が関与しています。そのため、ニキビの治療には、アクネ菌を標的として抗菌薬が使用されています。ニキビ治療における抗菌薬の使用は長期にわたるため、不適切に使用されることも少なくありません。その結果、薬剤耐性を獲得したアクネ菌が出現し、抗菌薬の治療効果が低下した患者が増加しています。さらに、抗菌薬はアクネ菌だけでなく、皮膚の善玉菌の増殖も阻害するため、正常な皮膚細菌叢の破綻を招く恐れがあります。
私たちは、このような現状を踏まえ、薬剤耐性菌の出現リスクが少なく、他の皮膚常在菌への影響が少ないニキビ治療薬の開発を目指して研究を行ってきました。そのシーズとして着目したのが、細菌が産生する抗菌ペプチドです。抗菌ペプチドは、従来の抗菌薬とは異なる機序で作用するため、薬剤耐性菌の出現リスクが低く、一部の細菌にしか作用しないため、常在菌に与える影響が少ないといった利点があります。今回、私たちは、アクネ菌の増殖を阻害する新しい抗菌ペプチドとして、皮膚常在菌の一種であるCutibacteirum avidumが産生するAvidumicinを発見しました(図1)。
Avidumicinは、皮膚常在菌であるブドウ球菌属菌には作用せず、一部の近縁種の増殖のみを阻害することが分かりました(図2)。さらに、実際のニキビ患者から分離された薬剤耐性株に対する有効性も確認できました。
C. avidumのアクネ菌増殖阻害株と非阻害株の全ゲノム配列を比較することで、抗菌ペプチドをコードするavdAと抗菌ペプチドの産生と分泌に関与すると予想される遺伝子クラスター(avd gene cluster)を特定しました(図3)。明らかになったタンパク質の配列をデータベースと照合し、環状の抗菌ペプチドであることが推測されました(図4)。また、立体構造の予測においても環状であることが示唆されたため、C. avidumが産生する新規環状抗菌ペプチドを『Avidumicin』と命名し、特許を取得しました(特許7267644:抗菌性ポリペプチド、抗菌性組成物および医薬組成物)。
薬剤耐性菌の出現によって、新規抗菌薬の開発数は大きく減少しています。そのため、薬剤耐性を生じにくい新規抗菌薬の開発が求められています。Avidumicinは一部の細菌に対してのみ有効であることから、既存の抗菌薬のデメリットの一つである皮膚細菌叢の破綻を回避することができます。さらに、抗菌ペプチドに対する耐性菌は、抗菌薬に比べると極めて出現しにくいため、ニキビ治療における問題点である薬剤耐性菌の出現回避が期待できます。
本研究成果は、本学の中南秀将教授、大学院に在学時の小泉珠理さん、講師として任用時の中瀬恵亮氏、野口雅久名誉教授の研究チームによって得られたものであり、英文誌The Journal of Antibioticsで公開されています。
Avidumicin, a novel cyclic bacteriocin, produced by Cutibacterium avidum shows anti-Cutibacterium acnes activity.
Juri Koizumi, Keisuke Nakase, Norihisa Noguchi, Hidemasa Nakaminami
J Antibiot, online ahead of print (2023) DOI:
https://doi.org/10.1038/s41429-023-00635-w
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