学校法人東洋大学(注1)(以下、東洋大学)、富士通株式会社(注2)(以下、富士通)、尼崎市(注3)の3者はこれまで特殊詐欺の未然防止技術として、非接触型センサであるミリ波センサによって計測した対象者の生理指標(心拍数・呼吸数)をもとに騙されている状態を検知する特殊詐欺検知AIを開発してきました(注4)。3者は、2024年11月に尼崎市在住の高齢者の自宅にミリ波センサを設置し、これまで開発してきた特殊詐欺検知AIの実用性を検証しました。高齢者の自宅環境を対象とした本実証実験の結果、高齢者が在宅中に電話による特殊詐欺を受け騙されている状態を、82%の検知精度で検知することに成功しました。
【 背景 】
本共同研究では、複雑化かつ巧妙化する特殊詐欺被害の未然防止に向けて、AIと犯罪心理学を組み合わせたコンバージングテクノロジーを活用することで、被害者が特殊詐欺に騙された状態であることを高精度に検知する特殊詐欺検知AIの開発を進めてきました。
2023年4月には、心理学の知見を基に設計した実験室実験にて、騙される状況を再現し、生理指標や心理アンケートなどのデータから、高齢者が騙されている状態を75%の精度で検知する特殊詐欺検知AIを開発しました(注4)。そして、2024年11月に高齢者の自宅という実用環境にミリ波センサを設置し、特殊詐欺検知AIの実用性を検証する実証実験を実施しました。
【 実証実験の概要 】
本実証実験では、高齢者の自宅にミリ波センサなどを設置し、特殊詐欺訓練AI(注5)から特殊詐欺を模した電話を自宅の固定電話にかけることで、自宅で特殊詐欺の電話に対応している様子を再現しました。自宅に設置したミリ波センサなどで電話中の生理指標を取得し、取得したデータをもとに特殊詐欺検知AIが騙されている状態を検知し、AIによる検知結果と電話での様子やアンケートの結果とを比較し、検知精度を検証しました。
図. 実証実験のイメージ
【 実証実験で生じた課題 】
参加者の中には、電話の内容に関わらず生理指標が強く反応する方がおり、特殊詐欺検知AIの精度が低下するという問題が生じました。本実証実験特有の課題として、見知らぬ電話番号から突然電話がかかり、対応を求められること自体に一部の参加者が緊張を感じ、生理指標が強く変動していることが分かりました。特殊詐欺検知AIは生理指標の変動に基づいて騙されている状態を検知するため、特殊詐欺に騙されていないにもかかわらず、生理指標が変動した一部の参加者を誤って騙されている状態と検知してしまいました。このため、実験室実験よりも精度が低くなり、66%の精度となりました。
【 課題に対する解決策とその効果 】
電話応対自体に緊張してしまうかどうかは、参加者の性格特性に起因すると考えて、性格特性に起因する生理指標の変動の個人差を補正する技術を新たに開発することで、特殊詐欺検知AIの精度の改善を実現しました。本技術では、生理指標の変動傾向と性格特性の関係性に関する心理学的知見をもとに、生理指標の変動を補正します。例えば、人と話すことが苦手な性格の人は、会話をするだけで緊張し心拍数が上昇する傾向にあると考えられます。こうした知見に基づき、性格特性に起因する生理指標の変動の個人差を吸収することで、生理指標の変動から特殊詐欺検知AIが正確に騙されている状態を検知することができました。本技術を特殊詐欺検知AIに適用した結果、その精度は適用前の66%から82%に向上しました。
【 今後の展望 】
東洋大学と尼崎市は、富士通と、複雑化かつ巧妙化する特殊詐欺において共通的に活用できる特殊詐欺検知AIモデルを開発することに成功しました。2022年度より実施してきた特殊詐欺の未然防止に向けた共同研究は本成果をもって終結となります。今後はこれまでの研究成果体験できる機会を尼崎市市役所等で提供していくことで、超高齢社会において、高齢者が安心安全な生活を送れる環境づくりに貢献することを目指します。
【 注釈 】
注1 学校法人東洋大学:所在地 東京都文京区、理事長 安齋 隆
注2 富士通株式会社:本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 時田 隆仁
注3 尼崎市:市長 松本 眞
注4 特殊詐欺の未然防止に向けた共同研究第2期を開始
https://pr.fujitsu.com/jp/news/updatesfj/2023/04/17-1.html
注5 犯罪心理学と生成AIを融合し、特殊詐欺防止訓練AIツールを開発
https://pr.fujitsu.com/jp/news/updatesfj/2023/11/30-1.html