【横浜市立大学】正確なゲノム編集にミスマッチ修復が及ぼす影響を解明

 横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科 分子生物学研究室の足立典隆教授と斎藤慎太助教は、ゲノム編集技術においてこれまで不明であった遺伝子ターゲティング効率とミスマッチ修復との関連を明らかにしました。この成果は、ゲノム編集やDNA修復の研究に重要な示唆を与えると期待されます。
 本研究成果は、国際科学雑誌Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)に掲載されました(日本時間2025年6月10日午前4時)。

研究成果のポイント
  • 正確なゲノム編集(相同組換えに依存した遺伝子ターゲティング)に及ぼすミスマッチ修復の影響は40年以上明らかにされていなかった。
  • ドナーDNA(ターゲティングベクター)中の相同領域が短いと、ミスマッチ修復タンパク質のはたらきによってゲノム編集の効率が低下することが実証された。

研究背景
 ゲノムDNAと相同な配列をもつドナーDNA(ターゲティングベクター)を細胞に導入すると、頻度はとても低いですが、相同な配列同士で組み換わる反応(相同組換え)を介してゲノム中の狙った位置にドナーDNAが組み込まれることがあります。この反応は遺伝子ターゲティングと呼ばれ、特定の遺伝子を破壊したり改変したり、あるいは狙った場所に任意の遺伝子を組み込むことができるため、「正確なゲノム編集」において欠かせない技術となっています。遺伝子ターゲティングの効率はミスマッチ修復によって低下するという考え方がもともと有力でしたが、生物種や細胞株、実験条件等の違いによって結果が異なることが相次いで報告されたこともあり、統一的な見解は得られていませんでした。

研究内容
 今回、横浜市立大学の研究グループは、さまざまな長さのDNAベクターとさまざまな種類のヒト細胞由来変異株を駆使した遺伝学的解析により、ベクター中の相同領域が短くなるにつれミスマッチ修復タンパク質の作用によって遺伝子ターゲティングの効率が低下することを明らかにしました。この現象は相同組換えを介した反応でのみ観察され、相同組換えを介さない反応(同研究グループが昨年明らかにしたメカニズム)では相同領域の長さとは無関係に弱い影響を受けていました(図1A)。以上の結果から、ゲノム編集において相同領域の短いベクターを使用すると、ベクター中の非相同領域の存在によって相同組換えを介した遺伝子ターゲティング反応の効率が低下することがわかりました(図1B)。

    A


    B

図1 遺伝子ターゲティング反応における相同領域の長さとミスマッチ修復との関係


今後の展開
 細胞のDNAを自在に改変できるゲノム編集技術はさまざまな分野で注目されており、その科学的重要性と社会的ニーズの高さは2020年のノーベル化学賞(CRISPR/Cas9)や2007年のノーベル医学生理学賞(遺伝子ターゲティングとノックアウトマウス)からもうかがい知ることができます。遺伝子ターゲティングの分子メカニズムや制御機構の詳細が明らかになれば、正確なゲノム編集の効率化や医療応用の加速化につながっていくことが期待されます。

研究費
 本研究は、主にJSPS科研費(JP19H01151、JP22K19382、JP24K22025)と横浜市立大学学長裁量事業 第5期戦略的研究推進事業「研究開発プロジェクト」、第4期学術的研究推進事業「YCU 未来共創プロジェクト」および、横浜市立大学創立100周年記念事業募金「新たな研究創生プロジェクト」の支援を受けて実施されました。

論文情報
タイトル:Homology-arm length of donor DNA affects the impact of Msh2 loss on homologous recombination-mediated gene targeting
著者:Shinta Saito, Tetsuya Suzuki, Takehiko Nohmi and Noritaka Adachi
掲載雑誌:Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.
DOI:https://doi.org/10.1073/pnas.2508507122






参考文献
[1] Saito S, Kato S, Arai U, En A, Tsunezumi J, Mizushima T, Tateishi K, Adachi N. HR eye & MMR eye: one-day assessment of DNA repair-defective tumors eligible for targeted therapy. Nature Communications. 2025 May 12;16:4239. doi: 10.1038/s41467-025-59462-2.
[2] Saito S & Adachi N. Characterization and regulation of cell cycle-independent noncanonical gene targeting. Nature Communications. 2024 Jun 18;15(1):5044. doi: 10.1038/s41467-024-49385-9.
[3] Saito S, Maeda R, Adachi N. Dual loss of human POLQ and LIG4 abolishes random integration. Nature Communications. 2017 Jul 11;8:16112. doi: 10.1038/ncomms16112.
[4] Chang HHY, Pannunzio NR, Adachi N, Lieber MR. Non-homologous DNA end joining and alternative pathways to double-strand break repair. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 2017 Aug;18(8):495-506. doi: 10.1038/nrm.2017.48.

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